本記事は、YouTube動画『60代・70代はいくらあれば安心?資産5000万円の取り崩し戦略と生前贈与』の内容を基に構成しています。
老後資金について考えるとき、多くの人が最初に気にするのは「いくら貯めれば安心できるのか」という点です。
かつては「老後2000万円問題」が大きな話題になりましたが、近年は物価上昇の影響もあり、3000万円や4000万円必要なのではないかという見方もあります。
しかし、老後の安心は単純な資産額だけでは決まりません。資産を増やすことばかり考えていると、元気なうちにお金を使えず、人生の終盤になってから「もっと旅行や趣味に使えばよかった」と後悔する可能性があります。
特に、長年にわたって堅実に貯蓄してきた人ほど、口座残高が減ることに強い不安を感じやすいものです。
60代や70代に必要なのは、無理に資産を増やし続けることではなく、生活の安心を維持しながら計画的に使うための「出口戦略」です。
この記事では、60代・70代の金融資産の実態、資産5000万円を保有する場合の取り崩し方、インフレの影響、70代からの運用方法、生前贈与の考え方について解説します。
60代・70代はいくら持っているのか
老後資金を考えるうえでは、同年代の世帯がどの程度の金融資産を保有しているのかを確認することも参考になります。
動画では、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」を基に、60代と70代の金融資産額が紹介されています。同調査はインターネットモニター方式で行われているため、日本の全世帯を完全に反映するものではありませんが、自分の立ち位置を把握するための資料にはなります。
60代の金融資産額
動画で紹介された60代単身世帯の金融資産額は、平均1364万円、中央値300万円です。
平均値は、調査対象者全員の資産額を合計し、人数で割った数字です。一部の富裕層が多額の資産を持っていると、その影響で平均値が大きく押し上げられます。
一方の中央値は、調査対象者を資産額の少ない順に並べたとき、ちょうど中央に位置する人の金額です。そのため、一般的な世帯の実態を知る目的では、平均値よりも中央値のほうが参考になる場合があります。
60代単身世帯では、3000万円以上の金融資産を持つ人が22.7%いる一方、100万円未満の人も12.8%いると紹介されています。資産額の分布には大きな差があることが分かります。
60代の2人以上世帯では、平均2683万円、中央値1100万円です。単身世帯と比べると、平均値、中央値ともに大きくなっています。
ただし、2人以上世帯には夫婦2人分の預貯金や退職金が含まれる可能性があります。単純に「2人以上世帯のほうが裕福」と考えるのではなく、人数や住居の状況、年金収入なども含めて判断する必要があります。
70代の金融資産額
動画で紹介された70代単身世帯の金融資産額は、平均1189万円、中央値500万円です。
3000万円以上を保有する人が一定数いる一方、金融資産を保有していない世帯や100万円未満の世帯も存在します。
70代の2人以上世帯では、平均2116万円、中央値1178万円です。60代と同様に、単身世帯と2人以上世帯では金融資産額に大きな違いがあります。
これらを整理すると、動画で紹介された数値は次のようになります。
| 年代・世帯構成 | 平均値 | 中央値 |
|---|---|---|
| 60代・単身世帯 | 1364万円 | 300万円 |
| 60代・2人以上世帯 | 2683万円 | 1100万円 |
| 70代・単身世帯 | 1189万円 | 500万円 |
| 70代・2人以上世帯 | 2116万円 | 1178万円 |
ただし、老後に必要な資産額は他人との比較だけでは決まりません。
持ち家か賃貸か、年金はいくら受け取れるか、毎月の生活費はいくらか、医療費や介護費をどこまで見込むかによって、必要な金額は大きく変わります。
「平均以上だから安心」「中央値以下だから危険」と単純に判断するのではなく、自分の家計に合わせて計算することが重要です。
資産を残すことだけが老後の正解ではない
50代や60代では、老後資金が不足することへの不安から、支出をできるだけ抑えようと考えがちです。
しかし、80代になると、別の問題が表面化します。資産は十分に残っているものの、旅行や趣味を楽しむ体力がなくなり、「元気なうちにもっとお金を使えばよかった」と感じるケースです。
動画の解説者は、証券会社に勤務していた時代、証券口座に1億円以上を持ちながら、年金の範囲内で質素に生活する80代の顧客を何人も見てきたと振り返っています。
もちろん、多額の資産を残すこと自体が悪いわけではありません。子供や孫に財産を残したいという考え方もあれば、資産が減らないことに安心を感じる人もいます。
重要なのは、自分が何のために資産を保有しているのかを明確にすることです。
お金を使えない4つの不安
動画では、十分な資産があってもお金を使えない理由として、次の4つが挙げられています。
- 何歳まで生きるか分からない
- 毎月いくらまで使ってよいか分からない
- インフレによって生活費が増えるのが心配
- 家族に経済的な迷惑をかけたくない
これらの不安は互いに関係しています。
寿命が分からなければ、何年間の生活費を残せばよいのか判断できません。医療費や介護費、物価上昇も予測が難しいため、念のために資産を残しておこうという考えになりやすいのです。
この問題を解決するには、感覚だけで「使う」「使わない」を決めるのではなく、資産の取り崩し計画を数字で作る必要があります。
健康寿命を意識してお金の使い方を考える
老後の資金計画では、平均寿命だけでなく健康寿命も意識する必要があります。
たとえ口座に十分な資産が残っていても、体力や健康状態の問題から、旅行や外食、趣味を楽しめなくなる可能性があります。
その意味では、60代から70代前半は、老後資産を単に守る期間ではありません。健康状態が比較的良いうちに、自分や家族の経験にお金を振り向けることも重要な選択肢です。
例えば、旅行、趣味、住環境の改善、家族との交流などは、後から同じ条件で実現できるとは限りません。
資産の出口戦略を作る目的は、単に資産を使い切ることではなく、「将来への安心を確保したうえで、今使える金額を明確にすること」にあります。
60歳で資産5000万円なら何歳まで持つのか
動画では、60歳時点で金融資産5000万円を保有している夫婦を例に、資産寿命を試算しています。
条件は次の通りです。
- 60歳から取り崩しを開始
- 毎月20万円を資産から取り崩す
- 別に夫婦で月20万円の年金収入がある
- 運用しない場合と年率4%で運用する場合を比較
運用利回りが0%で、毎月20万円を取り崩す場合、5000万円は単純計算で約20年10カ月持ちます。そのため、60歳から始めると80歳10カ月前後でなくなる計算です。
一方、動画内のシミュレーションでは、年率4%で運用できた場合、資産寿命は103歳2カ月まで延びるとされています。
ただし、この計算には重要な問題があります。毎月の取り崩し額を20万円で固定しているため、将来のインフレが十分に反映されていない点です。
インフレを考慮すると資産寿命は短くなる
現在の20万円と、20年後や30年後の20万円では、購入できる商品やサービスの量が異なります。
仮に物価が毎年2%ずつ上昇すると、現在20万円で賄える生活を維持するために必要な金額は、10年後には約24万4000円、20年後には約29万7000円、30年後には約36万2000円になります。
そのため、老後資金のシミュレーションでは、取り崩し額も物価に合わせて増えると考える必要があります。
動画では、次の条件でインフレを考慮した試算を行っています。
- 初期資産5000万円
- 取り崩し期間40年
- 期待リターン年率4%
- 想定インフレ率年率2%
- 初年度の取り崩し額は月20万円
この試算では、資産は約26.8年後に尽きるという結果になっています。60歳から取り崩しを始めると、87歳前後で枯渇する計算です。
当初は年間240万円だった生活費も、26年後には約400万円に近づきます。運用によって資産を増やしても、取り崩し額が物価上昇に合わせて増えるため、インフレを考慮しない計算より資産寿命は短くなります。
なお、年率4%の運用益が毎年安定して得られるわけではありません。実際の市場では、プラスの年もあれば大幅なマイナスになる年もあります。税金や運用コストも発生するため、シミュレーション結果は将来を保証する数字ではなく、あくまで一定の前提に基づく目安です。
公的年金も完全にはインフレを補えない
公的年金には、物価や賃金の動きを踏まえて年金額を改定する仕組みがあります。
しかし、マクロ経済スライドによる調整が行われている期間は、年金額の伸びが賃金や物価の伸びを下回る場合があります。したがって、額面の年金が増えても、実質的な購買力が十分に維持されるとは限りません。
老後の生活設計では、現在の年金額と生活費をそのまま数十年間固定するのではなく、次のような複数の条件で確認することが重要です。
- インフレ率が0%の場合
- インフレ率が1%の場合
- インフレ率が2%の場合
- 運用益が想定を下回った場合
- 医療費や介護費が増えた場合
1つの楽観的な想定だけで判断せず、悪条件が重なった場合にも生活を維持できるかを確認しておく必要があります。
70代から資産寿命を延ばすポートフォリオ
動画では、投資経験がほとんどない70代夫婦の事例も紹介されています。
この夫婦は約5000万円を現金で保有し、毎月20万円の年金を受け取っていました。そのうえで、資産から月10万円程度を追加で使いたいと希望していたといいます。
相談を受けた解説者は、次のようなポートフォリオを提案しています。
| 資産 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 米国債 | 2000万円 | 40% |
| 個人向け国債 | 2000万円 | 40% |
| 全世界株式 | 500万円 | 10% |
| 現金 | 500万円 | 10% |
株式の割合は10%に抑えられており、投資経験の少ない高齢者向けに、価格変動を比較的小さくすることを意図した配分です。
動画では、米国債の想定利回りを4.5%、個人向け国債を2%、全世界株式の期待リターンを5~7%と置き、全体では年率3%強の収益を見込んでいます。
この前提に基づく概算では、税引き後で年間約120万円、月平均約10万円を得られるとされています。
ただし、これは各資産が想定どおりの収益を生んだ場合の計算です。「元本を減らさず、確実に月10万円を使える」という意味ではありません。
米国債にも為替変動リスクがある
米国債は米ドル建てで保有する場合、満期まで持てば米ドルベースの元本償還は見込めますが、円換算した価値は為替相場によって変動します。
購入時より円高になれば、利息を受け取っていても円換算で損失が生じる可能性があります。反対に円安が進めば、円換算額は増えます。
また、満期前に売却すると、市場金利の変化によって債券価格が下落している場合があります。米国債を「安全資産」と呼ぶ場合でも、信用リスクが比較的小さいという意味と、円で見た資産価値が安定しているという意味は分けて考える必要があります。
全世界株式の期待リターンは毎年の収入ではない
全世界株式の期待リターンを年率5%と想定しても、毎年必ず5%上昇するわけではありません。
市場が大幅に下落した年に一定額を取り崩すと、安値で多くの口数を売却することになります。その後に市場が回復しても、保有口数が減っているため、資産が元の水準まで戻りにくくなる可能性があります。
したがって、期待リターンと、毎年安定して受け取れる利息や分配金は区別して考えなければなりません。
取り崩し期に注意したい順番リスク
資産を取り崩しながら運用するときに重要になるのが、シーケンス・オブ・リターン・リスクです。日本語では「収益順序リスク」や「順番リスク」と呼ばれます。
これは、運用期間全体の平均リターンが同じでも、利益と損失が発生する順番によって、最終的な資産額が大きく変わる問題です。
特に危険なのは、退職直後に大きな相場下落が起こるケースです。
資産形成中であれば、価格が下落しても売却せず、回復を待つことができます。しかし、生活費のために取り崩している場合は、下落中でも資産を売却しなければなりません。
その結果、市場が回復する前に保有資産が減り、資産寿命が短くなることがあります。
対策としては、当面の生活費を現金や値動きの比較的小さい資産で確保し、相場下落時に株式を売らなくても済むようにする方法があります。
一括投資と分割投資のどちらがよいのか
まとまった現金を運用に回す場合、一括で投資するか、複数回に分けて投資するかも問題になります。
市場には長期的な成長が期待できるという前提を置けば、早い段階で資金を投じる一括投資のほうが、一般に市場に参加する期間を長く確保できます。
しかし、投資直後に大幅な下落が起きれば、特に高齢者や投資経験の少ない人は精神的な負担を感じやすくなります。損失に耐えられず、安値で売却してしまう可能性もあります。
そのため、理論上の期待値だけでなく、年齢、収入、投資経験、損失に対する許容度を考慮する必要があります。
70代から初めて投資をする場合は、価格変動の大きい資産を一度に購入せず、一定期間に分けて移行する方法も現実的な選択肢になります。
富裕層が検討する生前贈与
60代や70代で1億円以上の資産を保有し、自分だけでは使い切れないと考える場合、生前贈与も選択肢になります。
生前贈与とは、本人が存命中に、子供や孫などへ財産を渡すことです。適切に行えば、下の世代が住宅、教育、子育て、資産形成などに早い段階からお金を活用できます。
暦年課税の基礎控除は受贈者1人につき年間110万円
暦年課税では、贈与を受ける人1人につき、年間110万円の基礎控除があります。
例えば、父親が妻と3人の子供にそれぞれ110万円を贈与した場合、受贈者にその年のほかの贈与がなければ、それぞれの贈与額は基礎控除の範囲内に収まります。
注意したいのは、110万円の控除が「贈与する人ごと」ではなく、「贈与を受ける人ごと」に計算される点です。複数の人から贈与を受けた場合は、原則としてその年に受け取った金額を合算します。年間の贈与額が110万円を超える場合、原則として贈与税の申告が必要です。
18歳以上の子供や孫には特例税率がある
直系尊属から、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の子供や孫などへ贈与した場合、一定の要件を満たせば特例税率が適用されます。
動画では、年間310万円、510万円、710万円といった贈与額が紹介されています。これは、110万円の基礎控除を差し引いた後の課税価格を、それぞれ200万円、400万円、600万円とする考え方です。
ただし、贈与税は課税価格に税率を掛けるだけでなく、税率区分に応じた控除額を差し引いて計算します。実際の税額は受贈者の年齢、贈与者との続柄、その年に受けたほかの贈与などによって変わります。
生前贈与の主な効果
動画では、生前贈与の効果として次の3点が挙げられています。
- 将来の相続財産を圧縮できる可能性がある
- 相続税の納税資金を早い段階から準備できる
- 贈与後の運用益を受贈者に帰属させられる
相続税は原則として相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に申告・納付する必要があります。不動産や非上場株式など、すぐに現金化しにくい資産が多い場合、納税資金の確保が問題になることがあります。
早い段階から現金を贈与しておけば、子供や孫が将来の納税資金を準備しやすくなります。
また、贈与後にその資金を運用して得た利益は、原則として贈与を受けた人の財産になります。そのため、長期運用できる若い世代へ早めに資産を移すことには一定の合理性があります。
生前贈与には持ち戻しと税務上の注意点がある
2024年1月1日以降の暦年贈与については、相続財産に加算される生前贈与の対象期間が従来の3年から段階的に7年へ延長されています。
ただし、7年間の贈与が直ちにすべて同じ扱いで加算されるわけではなく、相続開始前3年超7年以内の贈与については、合計額から100万円を差し引くなどの経過措置があります。
また、毎年同じ時期に同じ金額を渡す場合でも、最初から複数年分をまとめて約束していたと判断されれば、定期贈与として扱われる可能性があります。
受贈者本人が贈与を認識していない、通帳や印鑑を贈与者が管理し続けている、実際には受贈者が自由に使えないといった状態では、名義預金と判断されるリスクもあります。
さらに、孫への贈与や生命保険を組み合わせた対策には、契約者、被保険者、保険料負担者、受取人の組み合わせによって、相続税、所得税、贈与税のいずれが課されるかが変わる場合があります。
資産額が大きい場合は、動画内の金額をそのまま実行せず、税理士などの専門家に確認したうえで進める必要があります。
「いくらあれば勝ち組か」は資産額だけでは決まらない
60代や70代で安心できる金額は、世帯ごとに異なります。
例えば、資産5000万円を保有していても、賃貸住宅で生活費が月50万円かかる世帯と、住宅ローンのない持ち家で月25万円あれば暮らせる世帯では、資産寿命が大きく変わります。
確認すべきなのは、単純な預貯金残高ではなく、次のような家計全体の条件です。
- 公的年金や企業年金などの定期収入
- 毎月の基本生活費
- 住宅費と修繕費
- 医療費や介護費の予備資金
- 旅行や趣味に使いたい金額
- 子供や孫に残したい金額
- 想定する運用利回りとインフレ率
- 株価下落や円高に耐えられる資産配分
これらを整理すれば、「資産がいくらあれば安心か」ではなく、「毎年いくらまでなら安心して使えるか」を考えられるようになります。
まとめ
60代・70代の資産管理では、貯蓄額を増やし続けることだけが正解ではありません。
資産を守ることに集中しすぎると、旅行や趣味を楽しめる時期を逃し、人生の終盤に多額のお金だけが残る可能性があります。
一方で、運用利回りを楽観的に見積もって資産を使いすぎれば、長生きした場合に生活資金が不足するおそれがあります。
大切なのは、年金収入、生活費、インフレ、運用リスク、医療・介護費などを含めた取り崩し計画を作ることです。
資産5000万円を年率4%で運用できるという前提でも、インフレを考慮するかどうかで資産寿命は大きく変わります。また、米国債や全世界株式を組み入れる場合も、為替変動や価格下落、順番リスクを無視することはできません。
十分な資産があり、自分では使い切れない場合には、生前贈与も選択肢になります。ただし、贈与税や相続財産への加算、名義預金などの問題があるため、税務上の確認が欠かせません。
老後資金の出口戦略とは、資産を無理にゼロにする計画ではありません。将来の安心を確保しながら、健康なうちに自分や家族のために使える金額を明確にする計画です。
口座残高だけではなく、健康、時間、家族との思い出も含めて考えることが、後悔の少ない老後につながります。


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