本記事は、YouTube動画『複利効果で勝手に1億円の違和感』の内容を基に構成しています。
YouTubeやSNSでは近年、「複利効果で資産を増やす」「何年で1億円に到達できるのか」といった資産形成に関する情報が数多く発信されています。
複利は、長期的な資産形成を考えるうえで非常に重要な考え方です。一方で、過去の高いリターンをそのまま将来にも当てはめ、「長く運用すれば自然に1億円になる」と考えてしまうことには注意が必要です。
動画では、複利そのものを否定するのではなく、「複利で1億円」という言葉が広く受け入れられる現在の投資環境や、投資家が以前より高いリターンを求めるようになっていることへの違和感について解説しています。
そもそも複利効果とは何か
複利とは、投資によって得た利益を再び運用に回すことで、利益が利益を生む仕組みです。
例えば100万円を年利5%で運用するとします。
単純に毎年5万円を受け取り、それを使ってしまうのであれば、10年間で受け取る利益は50万円です。元本100万円と合わせれば150万円になります。
しかし、受け取った利息を再投資すると状況が変わります。
1年目に得た5万円も元本に加え、105万円を再び5%で運用します。その後も利益を再投資し続けると、10年後には約163万円になります。
再投資しなければ150万円、再投資すれば約163万円です。この差を生み出しているのが複利効果です。
考え方としては非常に単純で、利益を使わず投資に回せば、運用する元本が徐々に大きくなっていきます。その結果、同じ利回りでも利益の金額が増えていくことになります。
理論上の複利と現実の運用には違いがある
ただし、計算上の複利をそのまま現実で再現できるとは限りません。
例えば債券の場合、利子を受け取ったとしても、その時点で同じ条件・同じ利回りの債券に投資できるとは限りません。
金融理論では「連続複利」のように、得られた利益をすぐ元本に組み込んで運用する考え方もありますが、現実の投資では完全に同じ条件で再投資し続けることは難しい場合があります。
個人が自分で債券などを管理している場合は、特にこうした問題が出てきます。
その点では、分配金や配当などをファンド内部で再投資する投資信託などを利用すると、複利効果を活用しやすいという面があります。
「複利で1億円」に感じる違和感
動画で問題提起されているのは、複利そのものではありません。
違和感の中心にあるのは、「誰でも長期投資をすれば1億円を目指せる」という情報が広く受け入れられるようになったことです。
資産1億円という金額には、以前から「富裕層」というイメージがあります。
しかし、もし一般的な投資信託を積み立て、長期間運用していれば多くの人が1億円に到達できるのであれば、「1億円を持つこと」の意味も以前とは変わっているのではないか、というのが動画の問題意識です。
多くの人が1億円を持つ社会になれば、1億円そのものの希少性は低下します。
つまり、「1億円」という数字だけは同じでも、それによって得られる生活水準や社会的な位置付けまで同じとは限りません。
資産1億円以上の世帯は増えている
動画では、野村総合研究所の推計として、純金融資産1億円以上3億円未満の世帯数が増加していることにも触れています。
動画によると、2019年には約124万世帯だったものが、2023年時点では153万5000世帯まで増えたとされています。
株式市場が上昇したことで、長期間株を保有していた結果、いつの間にか金融資産が1億円を超えていたという会社員も以前より増えていると説明されています。
こうした状況を見ると、「1億円=一部の特別な富裕層」という感覚は徐々に変化している可能性があります。
特に株式や不動産などの資産価格が大きく上昇すると、名目上の資産額は増加します。
しかし、他の資産価格や物価も上昇していれば、その1億円が持つ実質的な価値まで同じとは限りません。
動画では、これを「資産バブルによって、過去の1億円と現在の1億円では意味が変わってきている」と捉えています。
「1億円になればゴール」とは限らない
資産形成の世界では「億り人」という言葉もよく使われます。
かつては資産1億円を達成すれば、仕事を辞めたり、経済的にかなり自由になったりするというイメージを持つ人も少なくありませんでした。
ところが資産価格や物価が上昇し、1億円以上の資産を持つ人が増えると、「1億円では十分ではない」と考える人も出てきます。
当初は1億円が目標だったはずなのに、1億円が現実的に見えてくると、今度は2億円、3億円と、さらに高い資産額を求めるようになる可能性があります。
ここには、近年の株式市場の強い上昇も影響していると動画では指摘しています。
株価上昇によって投資家が求めるリターンも高くなる
近年、特にテクノロジー企業を中心に株価が大きく上昇する局面がありました。
こうした相場を経験すると、投資家が期待するリターンも徐々に高くなっていく場合があります。
例えば世界株式に分散投資する「オルカン(全世界株式)」について、「リターンが低すぎる」「ほとんど預金と変わらない」といった意見がSNSなどで見られることがあります。
しかし、オルカンそのものの期待リターンが突然低下したわけではありません。
動画では、周囲の株式が大きく上昇したことで、投資家側が要求するリターンの水準が高くなっているのではないかと指摘しています。
株式市場が上昇すればするほど、
「もっと高いリターンを取りたい」
という心理が強くなる可能性があります。
そして、より高いリターンを求めた結果、通常の株式投資から、特定の業種や個別株、さらにはレバレッジ型ETFなどへ投資対象を移していく人も出てきます。
高いリターンには高いリスクが伴う
しかし、投資家が高いリターンを望んだからといって、市場がその希望通りのリターンを提供してくれるわけではありません。
一般的に高いリターンを狙うためには、それだけ大きな価格変動や損失の可能性を受け入れる必要があります。
つまり、期待リターンを高めれば、リスクも大きくなります。
株式市場の上昇が続いている間は、そのリスクが見えにくくなることがあります。
大きく値上がりしている資産を見ていると、比較的分散された株式ファンドですら「安全すぎる」「リターンが低すぎる」と感じるようになるかもしれません。
しかし、オルカンも株式です。
元本保証の商品ではなく、市場環境によっては大きく下落する可能性があります。
それにもかかわらず、それが預金のように感じられるほど投資家のリスク感覚が変化しているのであれば、それは注意すべき状態だと動画では指摘しています。
複利シミュレーションの「想定利回り」に注意
「複利で1億円」というシミュレーションでもう1つ重要なのが、計算に使用する利回りです。
例えば将来の資産額を計算するとき、
S&P500の過去10年間の平均リターン
日経平均株価の過去10年間のリターン
全世界株式の過去のリターン
NASDAQなど成長株指数のリターン
といった数字を参考にするケースがあります。
問題は、直近の株式市場の上昇率が非常に高かった場合、その期間を使って将来を計算すると、想定利回りも高くなってしまうことです。
例えば高い利回りを長期間維持できるという前提で複利計算をすると、将来の資産額は驚くほど大きくなります。
しかし、その利回りが今後も継続する保証はありません。
株式市場には長期間停滞した時代もある
株式は長期的に成長してきた市場が多い一方、いつでも順調に上昇してきたわけではありません。
日本では、日経平均株価がバブル期の高値を更新するまで30年以上かかりました。
米国株式市場でも、過去には10年以上にわたって株価指数が以前の高値を明確に超えられなかった時期があります。
つまり、過去10年間の好調なリターンだけを見て、
「今後も同じ利回りが続く」
と考えるのは危険です。
株式市場には上昇する時期もあれば、停滞する時期もあります。
複利計算そのものは数学的には正しくても、そこに入力する「利回り」が現実とかけ離れていれば、シミュレーション結果も現実から離れてしまいます。
複利は魔法ではない
複利効果は確かに強力です。
長期間にわたって利益を再投資すれば、単利よりも資産が大きく成長する可能性があります。
しかし、それは「長期間にわたって想定した利回りを実現できれば」という条件付きの話です。
実際の市場には暴落もあれば、長期間の停滞もあります。
また、投資期間の途中で資金が必要になったり、投資家自身が下落に耐えられなくなったりすることもあります。
そのため、「放っておけば簡単に1億円になる」というイメージで複利を捉えると、現実の投資との間に大きなギャップが生まれる可能性があります。
資産形成そのものを否定する話ではない
動画では、だからといって資産形成を行う意味がないと言っているわけではありません。
長期的に資産形成を考えること自体は重要です。
問題なのは、
「簡単に大きな資産を作れる」
「過去と同じ高いリターンがこれからも続く」
と考え、期待を膨らませすぎることです。
特に市場が好調な時期には、投資家はそれまで以上のリターンを求めやすくなります。
その結果、当初予定していた以上のリスクを取ってしまう可能性があります。
しかし、市場には良い時期もあれば悪い時期もあります。
投資家がどれだけ高いリターンを望んでも、市場がその期待に合わせて動いてくれるわけではありません。
まとめ
複利は長期投資において非常に重要な仕組みですが、「複利を使えば誰でも簡単に1億円」というほど単純なものではありません。
複利計算では一定の利回りが続くことを前提にするケースが多いものの、実際の金融市場ではリターンは毎年大きく変動します。
さらに、近年の株高によって資産1億円以上の世帯が増え、「1億円」という金額そのものの意味も以前とは変化しつつあります。
そして株式市場の上昇を経験すると、投資家は次第により高いリターンを求めるようになり、それに伴ってより大きなリスクを取ってしまう可能性があります。
重要なのは、周囲の投資成績やSNS上の高いリターンに振り回されることではありません。
市場には好調な時期もあれば、長期間伸び悩む時期もあります。
「何年で1億円になるか」というシミュレーションだけを見るのではなく、どの程度のリスクを取り、そのリスクに自分自身が耐えられるのかを考えることが、長期的な資産形成では重要になります。
複利を「資産を自動的に増やしてくれる魔法」と考えるのではなく、現実的なリターンとリスクを前提に、自分に合った運用を続けていくことが大切だといえるでしょう。


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