米国債は本当に安全なのか?長期債ETFのリスクと正しいポートフォリオ管理

本記事は、YouTube動画『守りの投資の勘違い 米国債の罠と正しいポートフォリオ管理』の内容を基に構成しています。

米国債は、一般的に「世界で最も安全な金融資産」と考えられています。米国政府が発行している債券であり、債務不履行に陥る可能性が極めて低いことから、金融市場ではリスクフリー資産の基準として扱われています。

しかし、米国債に投資すれば、必ず資産を守れるわけではありません。投資する債券の残存期間や商品設計によっては、株式を上回るほど価格が下落することもあります。

実際、米国の長期国債に投資するETF「TLT」は、動画で示された過去5年間のデータでは約44%下落しました。同じ期間に株式市場が大きく上昇していたことを考えると、「米国債は安全だから値下がりしない」という認識が正しくないことが分かります。

米国債そのものの信用力と、米国債に投資した場合の価格変動リスクは、分けて考える必要があります。

目次

米国債でも大きく損をする可能性がある

米国債は信用力の高い金融商品ですが、市場で取引されている以上、価格は常に変動します。特に注意しなければならないのが、満期までの期間が長い「長期債」です。

動画では、残存期間20年以上の米国債に投資するETFであるTLTが、過去5年間で約44%下落した事例が紹介されています。

分配金を含めたトータルリターンでは損失幅が多少小さくなるものの、基準価格だけを見ると、資産価値はほぼ半分になりました。

この下落の大部分は、2022年に発生しています。

2022年は、米国株を代表するS&P500も約20%下落しました。通常、株式と債券は反対方向に動きやすいといわれています。株式が下落すると、安全資産とされる債券が買われ、債券価格が上昇するという関係です。

ところが、2022年は株式と長期国債が同時に下落しました。しかもTLTの最大下落率は約40%に達し、S&P500よりも大きな下落となりました。

長期国債ETFが暴落した理由

2022年に長期国債ETFが大きく下落した直接的な理由は、米国の金利が急上昇したことです。

米国では、インフレを抑えるために中央銀行にあたるFRBが急速な利上げを進めました。政策金利は短期間で0%付近から5%を超える水準まで引き上げられ、10年国債や30年国債の利回りも大幅に上昇しました。

債券投資を理解するうえでは、次の関係が非常に重要です。

  • 金利が上昇すると、既に発行されている債券の価格は下落する
  • 金利が低下すると、既に発行されている債券の価格は上昇する

例えば、金利1%の債券を保有しているときに、新しく金利4%の債券が発行されれば、投資家は金利4%の債券を選びたくなります。

そのため、金利1%の古い債券を売却するには、価格を下げなければ買い手が見つかりません。これが、金利上昇によって債券価格が下落する基本的な仕組みです。

債券価格を左右するデュレーションとは

金利変動に対して、債券価格がどの程度動くかを判断する指標が「デュレーション」です。

デュレーションは、投資資金を回収するまでの平均的な期間を示す指標で、一般的には満期までの期間が長い債券ほどデュレーションも長くなります。

デュレーションが長い債券は、金利の変化による価格変動が大きくなります。反対に、デュレーションが短い債券は、金利が変化しても価格がそれほど大きく動きません。

例えば、満期まで1年程度の短期国債であれば、金利が上昇しても比較的短期間で償還されます。そのため、価格下落の影響は限定的です。

一方、満期まで20年や30年ある長期国債は、低い金利条件が長期間続くことになります。市場金利が上昇すると魅力が大きく低下するため、価格も大幅に下落します。

TLTは金利変動の影響を強く受ける

動画によると、TLTの実効デュレーションは約15年です。

実効デュレーションは、金利が1%変化した場合に、債券や債券ETFの価格が何%程度変動するかを示す目安です。

実効デュレーションが約15年の場合、金利が1%上昇すると、価格は単純計算で約15%下落する可能性があります。反対に金利が1%低下すれば、価格が約15%上昇する可能性があります。

過去5年間で米国の長期金利が約3%上昇したと考えると、約15%×3で45%前後の価格下落が想定されます。これはTLTの実際の下落率である約44%とおおむね一致します。

つまり、TLTの下落は米国政府の信用力が低下したからではありません。金利上昇と長いデュレーションが組み合わさった結果です。

コロナ禍を境に変化した金利環境

TLTが設定された2002年頃から新型コロナウイルスの流行前までは、米国金利が長期的に低下する局面が続いていました。

金利低下は債券価格の上昇要因です。そのため、TLTは長期にわたって大きく上昇し、設定当初から約4倍の水準まで値上がりしました。

しかし、コロナ禍を受けて状況が変化します。

各国の政府や中央銀行は、景気と金融市場を支えるために大規模な財政出動と金融緩和を実施しました。市場に大量の資金が供給された結果、インフレが加速し、その後はインフレを抑えるための利上げが必要になりました。

それまでの「金利が長期的に低下する時代」から、「インフレと高金利が続く可能性のある時代」へと市場環境が変わったという見方もできます。

長期金利が高止まりする場合、TLTのような長期国債ETFが短期間で大きく上昇するシナリオは描きにくくなります。

ただし、景気後退や金融危機によって急速な利下げが行われれば、長期国債ETFが大幅に上昇する可能性もあります。長期債は、平常時には金利上昇の影響を受けやすい一方、金融危機時にはポートフォリオを守る資産として機能する可能性があります。

生債券と債券ETFは何が違うのか

債券への投資方法は、大きく「生債券」と「債券ETF」に分けられます。

両者の最も大きな違いは、償還の有無です。

生債券は満期まで保有すれば額面で償還される

生債券には満期があります。

例えば、額面100で発行された米国債を購入し、途中で価格が下落したとしても、満期まで保有すれば、原則として額面100で償還されます。米国政府が債務不履行に陥らない限り、満期時には元本が戻ってくる仕組みです。

そのため、途中の価格変動を気にせず、満期まで保有することができます。

ただし、満期前に売却すれば、その時点の市場価格によって損失が発生する可能性があります。また、外貨建て債券を日本円で評価する場合は、為替変動による損失も考慮しなければなりません。

債券ETFには満期がない

債券ETFには、基本的に投資家に対する償還期限がありません。

ETF内部では保有している債券が満期を迎えるたびに、新しい債券へ入れ替えられます。そのため、投資家自身はどこかの時点でETFを売却する必要があります。

TLTの場合、残存期間20年以上の米国債を保有するというルールがあります。保有している債券の残存期間が20年を下回ると、その債券を売却し、より残存期間の長い債券を買い直します。

この仕組みにより、TLTは常に長いデュレーションを維持します。

そのため、生債券のように「満期まで待てば額面で戻ってくる」という安全装置はありません。価格が下落した場合、回復するまで保有するか、損失を受け入れて売却する必要があります。

一方で、債券ETFには流動性が高く、売買やリバランスがしやすいというメリットがあります。

短期国債は金利上昇に強い

長期国債が大きく下落した一方で、短期国債は比較的安定した値動きを続けました。

動画では、残存期間1年から3年の米国債に投資するETF「SHY」が紹介されています。

SHYはデュレーションが短いため、急速な利上げ局面でも価格変動が限定的でした。過去5年間の値動きは、TLTと比較するとほぼ横ばいに近い状態です。

本当に資産の価格変動を抑えたいのであれば、長期債よりも短期債の方が適している局面があります。

長期債は、金利低下時に大きな値上がり益を狙える一方、金利上昇時には大きく下落します。短期債は大幅な値上がりを期待しにくいものの、価格変動を抑えながら金利収入を得やすい商品です。

「債券だから安全」と一括りにするのではなく、デュレーションの違いを確認することが重要です。

ウォーレン・バフェットも短期国債を重視

動画では、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが、巨額の資金を米国の短期国債で運用していることも紹介されています。

短期国債は、長期国債より利回りが低くなる場合があります。しかし、デュレーションが短いため、金利変動による価格下落リスクを抑えられます。

株価が高く、積極的に株式を購入しにくい局面では、短期国債で数%の利回りを得ながら、次の投資機会を待つことができます。

短期国債は、単に資産を守るだけでなく、将来の株式購入に備える「待機資金」の運用先としても活用できます。

個人投資家には外貨MMFという選択肢もある

個人投資家が米国の短期金利を活用する方法として、外貨MMFがあります。

MMFは「マネー・マーケット・ファンド」の略で、短期国債や短期金融商品を中心に運用する投資信託です。

値動きは比較的小さく、外貨預金に近い感覚で利用できます。証券会社によって取扱商品や利回りは異なりますが、動画内では米ドルMMFで年3%台前半の利回りが紹介されています。

外貨MMFには、比較的流動性が高く、売却後の資金を米国株や米国ETFの購入に利用しやすいというメリットがあります。

ただし、日本の投資家にとっては為替リスクがあります。

米ドルベースで利益が出ても、円高・ドル安が進めば、円換算後の資産価値が減少する可能性があります。外貨MMFを利用する場合も、元本保証の商品ではないことを理解しておく必要があります。

結局、債券をどれだけ保有すればよいのか

債券の適切な保有比率は、投資家の年齢、収入、資産規模、投資期間、リスク許容度によって異なります。

すべての投資家が、必ず債券を保有しなければならないわけではありません。

資産形成を優先する人のポートフォリオ

20代や30代など、長期的な資産形成を優先し、大きな価格変動を受け入れられる人は、債券を保有しない選択肢もあります。

動画では一例として、次のような構成が紹介されています。

  • 株式70%
  • ゴールド10%
  • 現金20%

株式の比率を高めることで、長期的な資産成長を狙います。現金は、生活防衛資金や株価下落時の追加投資資金として保有します。

さらにリスクを取れる人は、現金比率を下げて株式を増やすことも考えられます。

ただし、株式中心のポートフォリオは、暴落時に大きな含み損を抱える可能性があります。数字上の期待リターンだけでなく、実際に下落に耐えられるかを考える必要があります。

バランスを重視する人のポートフォリオ

資産を増やしながら、ある程度の安定性も確保したい人には、株式と債券を組み合わせた運用が考えられます。

動画では、次のような例が示されています。

  • 株式50%
  • 債券30%
  • ゴールド10%
  • 現金10%

もう少しリスクを取る場合は、債券を20%に減らし、株式を60%に増やすこともできます。

債券部分には、短期国債、米ドルMMF、社債、長期国債ETFなどを組み合わせられます。

ただし、それぞれ役割が異なります。

短期国債や外貨MMFは価格変動を抑えながら金利収入を得るための商品です。社債は国債より高い利回りを期待できますが、企業の信用リスクがあります。TLTなどの長期国債ETFは、景気後退や利下げ局面での値上がりを狙う商品です。

債券という名称だけで判断せず、何を目的に保有するのかを明確にすることが重要です。

資産防衛を優先する人のポートフォリオ

リタイアが近い人や、既に十分な資産を形成している人は、資産を増やすことよりも守ることを優先する場合があります。

動画では、次のような例が紹介されています。

  • 債券60%
  • 株式20%
  • ゴールド10%
  • 現金10%

このような構成では、年5%から6%程度の利回りを目標としながら、株式市場の下落による影響を抑えることを目指します。

頻繁に売買しないのであれば、債券ETFだけでなく、満期まで保有できる生債券を組み合わせる方法もあります。

生債券を複数の満期に分けて保有すれば、毎年または数年ごとに償還資金を受け取る「債券ラダー」を作ることも可能です。償還された資金を、その時点の金利水準で新しい債券へ再投資できます。

従来の株式60%・債券40%だけでは不十分なのか

伝統的な資産配分として、株式60%・債券40%の「60対40ポートフォリオ」が広く知られています。

しかし、2022年のように株式と債券が同時に下落する局面では、十分な分散効果を得られないことがあります。

動画では、株式と債券だけでなく、ゴールド、不動産、インフラ、プライベート資産などのオルタナティブ資産を組み合わせる考え方も紹介されています。

一例としては、次のような配分です。

  • 株式50%
  • 債券30%
  • オルタナティブ資産20%

オルタナティブ資産には、株式や債券と異なる値動きをする可能性があります。ただし、商品によっては手数料が高く、換金しにくい場合もあります。

単純に資産の種類を増やすのではなく、それぞれのリスクと役割を理解したうえで組み合わせる必要があります。

ポートフォリオは定期的なリバランスが重要

株式や債券の価格が変動すると、当初決めた資産配分は徐々に崩れていきます。

例えば、株式50%・債券30%で運用を始めても、株式が大幅に上昇すれば、株式比率が60%や70%まで高まることがあります。

そのまま放置すると、当初想定していた以上のリスクを負うことになります。

そこで必要になるのがリバランスです。

値上がりして比率が高くなった資産を一部売却し、比率が低下した資産を買い増すことで、当初の配分に戻します。

債券ETFは市場で売買しやすいため、リバランスを頻繁に行うポートフォリオでは使いやすい商品です。一方、長期間保有して安定した利息を受け取りたい場合は、生債券が適していることもあります。

米国債の安全性と価格変動リスクは別問題

米国債は、現在も世界で最も信用力の高い金融資産の1つです。

ただし、「信用力が高いこと」と「価格が下落しないこと」は同じではありません。

米国政府が元本や利息を支払う能力に大きな問題がなくても、市場金利が上昇すれば、既に発行されている米国債の価格は下落します。

特に長期国債は、デュレーションが長いため、金利変動の影響を強く受けます。状況によっては、株式を上回る値下がりを経験する可能性もあります。

一方、満期までの期間が短い短期国債は、価格変動を抑えやすく、待機資金の運用先として活用できます。

「米国債は安全か危険か」という単純な二択ではなく、どの期間の米国債を、どの商品を通じて、何の目的で保有するのかを考える必要があります。

まとめ

米国債は信用力の高い資産ですが、投資方法によっては大きな損失が発生します。

TLTのような長期国債ETFは、金利低下時には大きな値上がりが期待できる一方、金利上昇時には株式以上に下落する可能性があります。その背景にあるのが、金利と債券価格の逆相関、そしてデュレーションです。

また、生債券と債券ETFにも大きな違いがあります。

生債券は満期まで保有すれば、原則として額面で償還されます。一方、債券ETFには投資家に対する満期がなく、自分で売却時期を判断しなければなりません。

資産の安定性を重視する場合は、短期国債や外貨MMFも選択肢になります。金融危機や大幅な利下げに備える場合は、長期国債ETFが機能する可能性があります。

重要なのは、「債券だから安全」と考えるのではなく、商品の仕組み、満期、デュレーション、信用リスク、為替リスクを理解することです。

年齢や資産状況、投資目的に応じて、株式、債券、ゴールド、現金、オルタナティブ資産を組み合わせ、定期的にリバランスすることが、安定したポートフォリオ管理につながります。

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