本記事は、YouTube動画『JPモルガンCEOが「株も債券も今は買わない」と警告、米国株と米国債はどうなる?』の内容を基に構成しています。
米国株への投資を続けている人にとって、世界最大級の銀行であるJPモルガン・チェースのトップによる発言は無視しにくいものです。
動画では、JPモルガン・チェースCEOのジェイミー・ダイモン氏が「現在の価格では株式も長期米国債も購入しない」という趣旨の発言をしたことを取り上げています。
一方、米国では株価が高値圏で推移するなか、信用取引残高も大きく膨らんでいます。さらに、米国30年債利回りが19年ぶりに5.3%を突破するなど、債券市場でも歴史的な変化が起きていると動画では解説されています。
「株が高いなら債券を買えばいい」と考えたくなるところですが、近年は株式と債券が同じ方向に下落する場面も増えており、従来型の分散投資が以前ほど機能しない可能性も指摘されています。
今回は動画の内容をもとに、なぜダイモン氏が株式と債券の双方に慎重なのか、米国株にどのようなリスクがあるのか、そして個人投資家はどのような点に注意すべきなのかを詳しく見ていきます。
JPモルガンCEOが「株も債券も今の価格では買わない」と発言
JPモルガン・チェースは世界最大級の銀行であり、そのCEOを長年務めているジェイミー・ダイモン氏は、金融業界だけでなく世界経済にも大きな影響力を持つ人物です。
動画では、株式投資の世界でウォーレン・バフェット氏、ヘッジファンド業界ではレイ・ダリオ氏、債券市場では「債券王」と呼ばれるジェフリー・ガンドラック氏、資産運用業界ではブラックロック創業者のラリー・フィンク氏などが代表的な人物として挙げられています。
そして銀行業界を代表する存在がダイモン氏です。
そのダイモン氏がインタビューで、「現在の価格では株式も長期米国債も購入しない」という趣旨の発言をしたことが今回の動画の出発点となっています。
ただし、この発言だけを見て「すべての株式や債券を売るべきだ」と考えるのは早計です。
動画によると、より正確には、株式についてはS&P500など市場全体を買うインデックス投資、債券については長期米国債に対して慎重な見方を示しているとされています。
市場はリスクを十分に織り込んでいない
動画内で整理されたダイモン氏の主張では、現在の市場価格は地政学的なリスクや米国の財政問題などを十分に織り込んでいない可能性があるとされています。
さらにAIについても慎重な立場を取り、現在の投資ブームには過去のインターネット・バブルと似た部分があるという趣旨の見方が紹介されています。
だからといって個別株投資そのものを否定しているわけではありません。
優れた企業が適切な価格で売られているのであれば投資を検討する一方、現在のバリュエーションでS&P500など市場全体を丸ごと買うことには慎重という考え方です。
債券についても同様です。
米国の慢性的な財政赤字によって国債発行が増え続ければ、長期金利には上昇圧力がかかります。そのため、インフレ率がFRBの目標である2%まで低下したとしても、米国10年債利回りは4~4.5%程度にとどまる可能性があるという見方が動画では紹介されています。
金利が高止まりするのであれば、すでに発行されている長期債の価格が大きく上昇する余地は限定されます。
つまりダイモン氏の発言を単純化すると、「株式は割高で上昇余地が限られ、長期債も金利が下がりにくいため価格上昇が期待しにくい」ということになります。
株式と債券が同時に下落するスタグフレーションのリスク
通常の景気後退では、株式と債券は逆方向に動きやすいと考えられています。
景気が悪化すると企業業績への懸念から株価は下落します。一方、景気悪化によって中央銀行による利下げ期待が高まり、長期金利が低下すれば債券価格は上昇しやすくなります。
そのため、株式と債券を組み合わせることが代表的な分散投資の方法として長く利用されてきました。
しかし、問題になるのがインフレと景気悪化が同時に進むスタグフレーションです。
物価上昇が続いている状態では、景気が悪化しても中央銀行が簡単には利下げできません。
すると株価が下落する一方で金利も高止まりし、債券価格まで下落する可能性があります。
動画では、ダイモン氏が明確にスタグフレーションを予想していると断定しているわけではありませんが、株式と長期債の双方に慎重な姿勢を示している背景として、こうした状況も考えられると解説しています。
株式と債券の両方が下落すると、一般的な個人投資家にとって非常に難しい相場環境になります。
米国株が危険と言われる理由① 信用取引残高が大きく膨張
動画では、現在の米国株を考えるうえで注目したいデータとして「信用取引」が取り上げられています。
信用取引とは、自己資金以上の金額で株式を売買するレバレッジ取引の1つです。
相場が上昇している間は大きな利益を狙えますが、相場が下落すると損失も拡大します。また、借りた資金はいずれ返済しなければならないため、株価下落によって信用取引の解消が始まると、それ自体が追加の売りにつながる可能性があります。
動画ではS&P500と米国の信用取引残高を比較したチャートが紹介されています。
過去を見ると、2000年前後のITバブル、2007~2008年の金融危機、そしてコロナショック後の金融緩和相場などで、株価と信用取引残高がともに大きく上昇した後、反転するという動きが確認できると説明されています。
さらに、1997年を起点として比較すると、動画内のデータではS&P500が約352%拡大したのに対し、信用取引残高は約556%まで増加しています。
これは、株価以上のペースでレバレッジを利用した投資資金が市場へ流れ込んでいることを意味します。
もちろん、信用取引残高が高いからといって直ちに暴落するわけではありません。
上昇相場が続けば、信用取引残高もさらに増える可能性があります。
ただし、レバレッジが大きくなればなるほど、相場が反転した際の巻き戻しも大きくなる可能性があります。
その意味では、米国株市場の過熱度を測る1つの警戒材料と考えることができます。
米国株が危険と言われる理由② 株式の利回りと国債利回りの差が縮小
もう1つ動画で取り上げられているのが、株式益回りと米国債利回りの関係です。
株式益回りとは、株価に対して企業がどの程度の利益を生み出しているかを表す指標で、PERの逆数として考えることができます。
一般的に株式は債券よりもリスクが高いため、投資家は株式に対してより高い期待リターンを求めます。
例えば、株式と安全性の高い債券のどちらも5%の利回りしか得られないのであれば、大きく値下がりする可能性がある株式より、満期まで保有すれば元本償還が期待できる債券を選ぶ投資家が増えても不思議ではありません。
そのため通常は、株式益回りには国債利回りより一定の上乗せが必要になります。
ところが動画では、S&P500の株式益回りと米国長期金利の差が非常に小さくなっていると指摘されています。
つまり、株式の高いリスクを取ることに対する追加的なリターンが小さくなっているということです。
この状況がさらに進めば、投資家から見た株式の魅力が低下する可能性があります。
ただし、動画でも説明されているように、この利回り差が小さくなったからといって、すぐに株価暴落が起きるわけではありません。
過去にも長期間にわたって現在に近い状況が続いた時期はあります。
重要なのは「暴落の予言」として使うのではなく、市場のリスクが以前より高まっていないかを判断する材料の1つとして見ることです。
米国30年債利回りが19年ぶりに5.3%を突破
株式市場だけでなく、債券市場でも大きな変化が起きています。
動画によると、米国30年債利回りが一時5.3%を突破しました。
これは約19年ぶりの水準であり、2007年以来となる歴史的な高水準だと説明されています。
さらに上昇しているのは30年債だけではありません。
米国2年債、10年債、30年債の利回りはいずれも上昇傾向にあるものの、特に長期になるほど金利上昇が目立っているとされています。
イールドカーブがスティープ化
国債の残存期間ごとの利回りを並べたものを「イールドカーブ」と呼びます。
動画では、長期金利の上昇が特に大きくなることで、イールドカーブの傾きが急になっていると解説されています。
長期金利の上昇が目立っている理由の1つが「タームプレミアム」です。
タームプレミアムとは、長期間にわたって債券を保有するリスクに対して投資家が要求する追加的な利回りです。
例えば30年間お金を固定して貸す場合、その間にはインフレ、政策変更、財政悪化などさまざまなリスクがあります。
こうした将来の不確実性に対して、投資家が「もっと高い金利をもらわなければ長期国債を買いたくない」と考えれば、長期債の利回りは上昇します。
現在、その背景として警戒されているのが米国の財政問題です。
米国の財政赤字と政府債務が長期金利を押し上げる
動画では、米国政府の財政赤字拡大が長期金利上昇の重要な要因として取り上げられています。
財政赤字が続けば、政府は不足する資金を国債発行によって調達しなければなりません。
国債の供給量が増え続ける一方、投資家の需要が十分に増えなければ、国債価格には下落圧力がかかります。
そして債券価格と利回りは逆方向に動くため、国債価格が下落すれば利回りは上昇します。
動画では、米国政府の債務が40兆ドルを超えたことにも触れています。
さらに長期的には、財政赤字だけでなく利払い費そのものが財政を圧迫する可能性があります。
動画で紹介されている見通しでは、米国の財政赤字はGDP比で2025年の6.3%から2035年には8.5%へ拡大するとされています。
また、政府債務の平均金利についても2023年の3%から、今後10年間の平均では3.4%程度へ上昇する想定が紹介されています。
金利が上がれば当然、政府が負担する利払い費も増えます。
動画では、政府収入に占める利払い費の割合が2021年の9%から2035年には30%程度まで拡大する可能性があるという試算も紹介されています。
もし政府収入の約3割が借金の利払いだけに消えるようになれば、財政運営の自由度は大幅に低下します。
そして財政への不安が高まれば、投資家が米国債に求める利回りがさらに上昇する可能性があります。
これが、長期米国債に対して慎重な見方が出ている大きな理由です。
FRBが長期金利を抑える可能性はあるのか
長期金利が上がり続けると、政府だけでなく企業や家計にも大きな負担がかかります。
住宅ローンや企業向け融資など、多くの金利が米国債利回りの影響を受けるためです。
そこで動画では、将来的に米国政府やFRBが長期金利を意図的に抑える可能性についても触れています。
オペレーション・ツイストとは
その方法の1つが「オペレーション・ツイスト」です。
これは一般に、短期国債を売却する一方で長期国債を購入することで、長期金利を押し下げる政策です。
短期債を売れば短期金利には上昇圧力がかかりますが、同時に長期債を買えば長期金利を抑える効果が期待できます。
さらに、短期債の売却額と長期債の購入額を同程度にすれば、中央銀行のバランスシートを大きく拡大させることなく金利構造に働きかけることができます。
YCCの可能性もゼロではない
動画では、さらに踏み込んだシナリオとしてYCC、つまりイールドカーブ・コントロールにも触れています。
YCCとは、中央銀行が特定の年限の国債利回りに目標や上限を設定し、その水準を維持するために国債を購入する政策です。
日本銀行が長期間実施していたことで知られています。
米国でも第2次世界大戦中から戦後にかけて、FRBと財務省が協力して金利を抑える政策が行われた歴史があります。
そのため、米国の財政負担がさらに大きくなり長期金利が急上昇した場合、何らかの金利抑制策が検討される可能性を完全には否定できないというのが動画の見方です。
ただし、これは現時点で確定している政策ではなく、あくまで将来考えられるシナリオの1つとして紹介されています。
米国株については依然として強気の見通し
ここまで読むと、「米国株も米国債も危険なら、すべて売った方がいいのではないか」と感じるかもしれません。
しかし、動画の発信者自身は米国株に対して弱気になっているわけではありません。
むしろ株式については強気姿勢を維持しており、債券については中立からやや弱気というスタンスを示しています。
動画では、米国企業の業績が拡大しており、株価上昇が単純なPERの上昇だけではなくEPS、つまり1株当たり利益の成長によって支えられていることが理由として挙げられています。
株価は単純化すると、
株価=EPS×PER
という形で考えることができます。
PERだけが上がって株価が上昇しているのであればバブル的な色彩が強まりますが、企業利益そのものが増えているのであれば、株価上昇には一定のファンダメンタルズ上の根拠があります。
そのため動画では、米国株について「もう1段上昇する可能性がある」との見方が示され、S&P500について8000ポイントが1つの目標になり得るとの考えも述べられています。
もちろん、これは動画内で示された予想であり、将来の株価を保証するものではありません。
「株が下がれば債券が上がる」という常識が崩れ始めている
個人投資家にとって特に重要なのが、株式と債券の関係です。
これまで分散投資では、
「株式が好調なときは債券が低調」
「株式が下落すると債券が上昇する」
という逆相関を利用する考え方が広く使われてきました。
ところが動画では、2020年以降、この関係が弱まっていると指摘されています。
実際、株式市場が下落しているにもかかわらず米国債利回りが上昇し、債券価格まで同時に下落する局面が見られると説明されています。
債券価格と金利は基本的に逆方向へ動きます。
したがって米国債利回りが上昇するということは、債券価格が下落していることを意味します。
つまり、
株価下落+債券価格下落
という、分散投資にとって非常に厳しい状況が起こりやすくなっているのです。
株と債券が両方下がる時代にどう備えるか
では、株式と債券の分散効果が弱まった場合、個人投資家は何を保有すればよいのでしょうか。
動画では、株式と債券の双方が下落するような局面では、大きなプラスリターンを狙うこと自体が難しいと説明しています。
そのため、無理に利益を出そうとするよりも「損失を小さくする」という発想が重要になります。
具体的には、現金やゴールドをポートフォリオへ組み入れることや、債券を保有する場合でも30年債のような超長期債ではなく、より年限の短い債券を選ぶ方法などが紹介されています。
長期債は金利変動に対する価格の感応度が大きいため、金利上昇局面では値下がり幅も大きくなります。
一方、短期債であれば一般的に金利変動による価格への影響は比較的小さくなります。
動画の発信者自身も、現時点では引き続き株式でリスクを取って資産を増やす方針を維持しながら、将来的には株式の一部を売却して安全資産へ移す可能性も考えていると述べています。
有名投資家の発言をそのまま売買判断にしてはいけない
今回の動画を見るうえで忘れてはいけないのが、ダイモン氏が「買わない」と言ったからといって、個人投資家も同じ行動を取る必要はないという点です。
世界的な金融機関のCEOと一般の個人投資家では、資産規模も投資期間もリスク管理方法も大きく異なります。
また、市場に大きな影響力を持つ人物の発言には、その人物が置かれた立場や市場環境など、さまざまな要素が含まれています。
重要なのは「誰が買うと言った」「誰が売ると言った」という情報だけで投資判断を変えることではありません。
その発言の背景に、
なぜ株式を割高だと考えているのか。
なぜ長期金利が下がりにくいと見ているのか。
なぜ株式と債券の分散効果が弱まっているのか。
という経済的な理由を理解することが大切です。
今回の動画も、ダイモン氏の発言を100%信じるのではなく、現在の株式市場と債券市場について考えるきっかけとして利用すべきだとしています。
まとめ
今回の動画では、JPモルガン・チェースCEOのジェイミー・ダイモン氏による「現在の価格では株式も長期米国債も買わない」という趣旨の発言を出発点として、現在の米国株と米国債が抱えるリスクについて詳しく解説されていました。
米国株では信用取引残高が大きく膨らんでおり、株価以上のスピードでレバレッジ資金が増えていることが警戒材料となっています。
さらに、S&P500の株式益回りと米国債利回りの差も小さくなっており、債券と比較した株式の割高感を意識する必要があります。
一方、債券市場では米国30年債利回りが5.3%を突破するなど超長期金利が上昇しています。
その背景には、米国政府の巨額の財政赤字や政府債務、国債発行量の増加、将来の利払い費拡大への懸念があります。
さらに個人投資家にとって大きな問題となるのが、株式と債券の逆相関が以前ほど機能しなくなっている可能性です。
今後、インフレや財政問題によって金利が高止まりすれば、株式が下落した際に債券価格まで下落する状況が起こる可能性があります。
そうした環境では、株式と債券だけで分散する従来型のポートフォリオではなく、現金、ゴールド、短期債などを含めた幅広いリスク管理がより重要になってくるでしょう。
ただし、動画の発信者は米国株の上昇余地そのものを否定しているわけではありません。企業業績が拡大していることから株式には引き続き強気で、債券については中立からやや弱気という見方を示しています。
結局のところ、明日の株価や金利を正確に予測することはできません。
だからこそ重要なのは、著名投資家の発言だけで売買を決めるのではなく、株価、企業利益、金利、財政、信用取引など複数のデータを理解したうえで、自分自身のリスク許容度に合った投資を続けることです。
動画の最後でも強調されていたように、資産運用では「知っているか、知らないか」が長期的な結果に大きな差を生む可能性があります。市場の短期的な値動きに振り回されるのではなく、金融知識を少しずつ積み上げていくことが、長期投資を続けるうえで重要と言えるでしょう。


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