本記事は、YouTube動画『なぜ秋に金利が上がるのか?世界の財政赤字と金利上昇の関係』の内容を基に構成しています。
世界の金融市場では、秋になると長期金利の上昇が話題になることがあります。
もちろん、毎年必ず秋に金利が上昇するわけではありません。しかし過去を振り返ると、夏から秋にかけて国債利回りが上昇し、市場が大きく動くケースは少なくありません。
では、なぜ秋になると金利が上がりやすいのでしょうか。
その背景には単なる季節性だけではなく、各国政府の予算編成、財政赤字、国債の格付け、債券発行など、複数の要因があります。
そして現在は、防衛費や社会保障費、成長産業への投資などによって世界的に政府支出が増えているため、この問題は今後の金融市場を考えるうえでも重要になっています。
今回は、秋に金利が上昇しやすい理由と、その背景にある世界的な財政赤字の拡大について詳しく見ていきます。
世界的に長期金利の上昇が注目されている
動画ではまず、世界的に金利上昇への警戒感が強まっていることが紹介されています。
なかでも注目されているのが、アメリカの長期金利です。
米国10年国債利回りは4.8%程度まで上昇し、2023年11月以来の高い水準となりました。
2023年には米国10年国債利回りが一時5%程度まで上昇し、金融市場に大きな影響を与えました。
そして、その前年である2022年の秋にも世界的な金利上昇が発生しています。
この時期にはイギリスで、いわゆる「トラス・ショック」が発生しました。
当時のトラス政権が大型減税を打ち出したことで、財政悪化への懸念が急速に高まり、英国債が売られて金利が急上昇しました。
その影響はイギリス国内だけにとどまらず、世界の債券市場にも波及しました。
そして、このときも8月から10月頃にかけて金利が急速に上昇しています。
金利は本当に秋になると上昇するのか
ただし、「秋になれば必ず金利が上がる」と考えるのは正確ではありません。
動画でも、2025年には夏場以降に金利が低下したことが紹介されています。
つまり、秋だから自動的に金利が上昇するわけではありません。
それでも過去10年間を見ると、下半期に金利が上昇した年は7回、低下した年は3回だったとされています。
もちろん、2021年以降に世界的な金利上昇局面が続いたことも、この数字には影響しています。
それを考慮しても、夏から秋にかけて金利上昇が市場のテーマになりやすい傾向はあると考えられます。
では、なぜこの時期に金利上昇要因が増えるのでしょうか。
その最大の理由の1つが、各国政府の財政政策です。
秋は各国の予算編成が本格化する時期
多くの国では、夏休みが終わった秋頃になると、翌年度の予算についての議論が本格化します。
国によって予算編成の時期には多少の違いがありますが、夏から秋にかけて財政政策への注目が高まりやすいという点は共通しています。
現在、多くの先進国が抱えている大きな問題が財政赤字です。
政府としては本来、これ以上財政赤字を増やさないように歳出を削減したいところですが、実際には簡単ではありません。
社会保障、防衛、景気対策、インフラ整備など、削減が難しい支出が数多く存在するからです。
さらに政権の支持率が低い場合には、野党などの意見にも配慮する必要があります。
その結果、支出削減が進まず、
「今後さらに財政赤字が膨らむのではないか」
という懸念が市場で強まることがあります。
この懸念が国債売りにつながり、長期金利を押し上げる要因になります。
なぜ財政赤字が増えると金利が上がるのか
ここで初心者向けに、財政赤字と金利の関係を整理しておきます。
政府の支出が税収を上回ると、政府は不足する資金を調達する必要があります。その代表的な手段が国債の発行です。
財政赤字が拡大すると、将来的に発行しなければならない国債の量も増える可能性があります。
市場に出回る国債の供給が増えれば、投資家に買ってもらうために、より高い利回りが必要になる場合があります。
また、財政状況が悪化すると、
「この国の財政は本当に持続可能なのか」
という不安も強まります。
そのリスクを引き受けてもらうため、投資家がより高い利回りを要求するようになれば、国債価格は下落し、国債利回りは上昇します。
国債では基本的に、価格が下がると利回りが上がる関係にあります。
そのため財政赤字の拡大は、長期金利を上昇させる重要な要因の1つなのです。
2020年以降に世界の財政赤字が拡大した理由
動画では、2020年以降の金利上昇と財政赤字の拡大には密接な関係があると指摘されています。
最初の大きな要因は、新型コロナウイルスのパンデミックでした。
経済活動が急速に落ち込んだため、各国政府は家計や企業を支える目的で大規模な給付金や経済対策を実施しました。
その結果、多くの国で政府支出が急増しました。
その後、ウクライナ戦争が始まると状況はさらに変化します。
各国で防衛費が増加したほか、原油や天然ガスなどのエネルギー価格上昇を受け、物価高対策にも多額の財政支出が必要になりました。
さらに現在では、半導体、AI、データセンター、エネルギーなどの成長分野を中心に、政府と民間企業が共同して大型投資を進める動きも広がっています。
日本を含め、多くの国がテクノロジーや重要産業への投資を拡大しています。
こうした複数の要因が重なったことで、政府の支出を簡単に減らせない状況が続いています。
そして、「今後さらに財政赤字が拡大するのか」が不透明になりやすい時期が、各国の予算編成が本格化する秋なのです。
秋は国債格付けにも注目が集まりやすい
秋に金利が上昇しやすいもう1つの重要な理由が、格付け会社の動きです。
格付け会社は、国や企業が発行する債券について、
「どの程度信用できるのか」
を評価しています。
国債の場合は、政府の財政状況や経済成長率、債務返済能力などをもとに評価が行われます。
もちろん、重大な変化があれば季節に関係なく格付けが変更される可能性があります。
一方で、格付け会社は定期的に各国の信用力や見通しを公表しており、こうした評価が秋頃に注目されるケースがあります。
背景には、各国政府の予算編成の進捗状況を確認しながら財政状況を評価する必要があることも関係しています。
格下げ懸念だけでも金利上昇につながる
財政赤字が大きく拡大している国の場合、信用格付けが引き下げられる可能性があります。
国債が格下げされると、その国債を保有できなくなる投資家が出てくる場合があります。
機関投資家のなかには、
「一定以上の信用格付けを持つ債券しか購入しない」
という運用ルールを設けているところがあるからです。
そのため実際に格下げが行われれば、国債が売られ、価格が下落し、利回りが上昇する可能性があります。
さらに重要なのは、実際に格下げされなくても、
「格下げされるのではないか」
という懸念が広がるだけで国債が売られることがある点です。
現在は多くの国で財政赤字が拡大しているため、格付けをめぐる不安も秋の金利上昇要因になりやすくなっています。
9月は債券発行が増えやすいというテクニカル要因もある
金利が上がりやすい背景には、財政問題だけでなく、債券市場特有の需給要因もあります。
動画では、債券発行が1月初旬と夏休み明けの9月初旬に集中する傾向があることが紹介されています。
夏休みシーズンが終わり、市場参加者が本格的に戻ってくると、企業などによる債券発行も増えてきます。
債券の新規発行が大量に行われれば、市場に供給される債券が増加します。
供給が需要を上回れば、債券価格には下落圧力がかかり、結果として金利が上昇しやすくなります。
こうした需給面の動きも、9月頃に金利が上がりやすくなる理由の1つです。
ハイパースケーラーによる巨額の債券発行も増加
動画では、大手テクノロジー企業など、いわゆる「ハイパースケーラー」による債券発行の増加にも触れられています。
ハイパースケーラーとは、大規模なクラウドサービスやデータセンターを世界的に展開する巨大企業を指します。
AI関連サービスの急拡大によって、現在はデータセンター、半導体、電力設備などに巨額の資金が必要になっています。
その資金調達手段の1つとして債券発行が増えているわけです。
規模の大きな債券発行が相次げば、債券市場全体の需給にも影響を及ぼします。
そのため、こうした企業による大型債券発行も債券相場を圧迫し、金利を押し上げる要因になっていると考えられます。
ただし動画では、企業の債券発行よりも、各国政府の財政赤字をめぐる不透明感のほうが金利に与える影響は大きいとされています。
「秋の金利上昇」は今後もしばらく続く可能性
問題は、この秋の金利上昇リスクが一時的な現象なのかという点です。
動画では、財政赤字をめぐる問題は今後もしばらく続く可能性があると指摘しています。
特に大きな要因の1つが防衛費です。
世界的な安全保障環境の変化を背景として、多くの国が防衛予算を増やす方針を示しています。
欧州を中心に、アメリカだけに安全保障を依存するのではなく、自国や欧州各国でも防衛能力を強化する必要性が高まっています。
ロシアへの対応などを考えれば、今後も防衛関連支出は簡単には減らせないと考えられます。
つまり、各国政府にとって新たな恒常的支出が増えていることになります。
少子高齢化による社会保障費も財政を圧迫
防衛費と並んで財政を圧迫しているのが社会保障費です。
先進国の多くでは、移民の影響を除けば少子高齢化が進んでいます。
高齢者が増えれば、年金や医療、介護などに必要となる政府支出も増加します。
一方で現役世代が減少すれば、税金や社会保険料を負担する人の割合は低下します。
そのため、社会保障制度そのものを改革しなければ財政赤字が拡大しやすくなります。
しかし社会保障改革は国民生活に直接影響するため、政治的には非常に難しい問題です。
動画では、その例としてフランスが取り上げられています。
フランスでは年金制度改革を通じて財政負担を軽減しようとする動きがありましたが、国民から強い反発が起こりました。
財政再建が必要だと分かっていても、歳出削減を実行するのは簡単ではないという典型例だといえます。
イギリスでも医療や住宅政策に巨額の資金が必要
イギリスでも財政支出を増やさざるを得ない問題があります。
代表的なのが国民医療制度です。
医療サービスを受けるまで長期間待たなければならない人が多数存在しており、制度の立て直しには大きな財政支出が必要になります。
さらに住宅不足への対応として住宅建設を進める必要もあります。
医療も住宅も国民生活にとって重要であり、単純に予算を削減できる分野ではありません。
そのため、各国政府は「財政赤字を減らしたい」という目標を掲げながらも、実際には新しい支出を増やさざるを得ないという難しい状況に置かれています。
日本でも官民による大型投資が進む
日本についても、成長分野への大規模な官民投資を進める計画が取り上げられています。
半導体やAIなどの戦略分野は、将来の経済成長や安全保障にも直結します。
そのため単純な歳出削減ではなく、
「将来の成長のために今は投資する必要がある」
という考え方が各国で広がっています。
しかし、成長につながる投資であっても、政府が資金を負担すれば短期的には財政赤字を拡大させる要因になります。
防衛、社会保障、エネルギー対策、産業政策などを同時に進めなければならないことが、現在の各国政府が抱える大きな問題です。
選挙があると財政赤字が増えやすい理由
動画では、2020年以降、選挙のたびに財政赤字が拡大する傾向についても触れられています。
選挙前の政治家にとって、増税や歳出削減は支持を失いやすい政策です。
反対に、給付金、減税、社会保障の拡充などは有権者から支持されやすい傾向があります。
そのため選挙が近づくと、財政再建よりも景気支援や生活支援が優先される可能性があります。
結果として政府支出が増え、財政赤字がさらに拡大することになります。
このような政治的な事情も、世界の財政赤字を減らしにくくしている背景の1つです。
財政赤字は通貨安・インフレ・金利上昇につながる可能性
世界的に財政赤字が高い水準で続いた場合、金融市場にはさまざまな影響が考えられます。
動画では、
「通貨安」
「インフレ」
「金利上昇」
につながる可能性が指摘されています。
財政への信認が低下すれば、その国の通貨が売られる可能性があります。
通貨安になれば輸入物価が上昇し、インフレ圧力がさらに強まることがあります。
インフレが高止まりすれば中央銀行も簡単に利下げできなくなり、結果として金利が高い状態が続く可能性があります。
つまり、
財政赤字拡大 → 国債への不安 → 長期金利上昇 → 通貨やインフレへの影響
という形で複数の問題がつながっているわけです。
アメリカの財政赤字も簡単には改善しない
世界の金融市場への影響という意味では、特に重要なのがアメリカです。
米国債は世界最大級の債券市場であり、米国の長期金利は世界の株式、為替、住宅ローン、企業の資金調達など幅広い市場に影響します。
動画では、アメリカの財政赤字についても今後改善する見込みを持ちにくい状況だと説明されています。
議会の構成によっては財政政策を簡単に進められなくなる可能性がある一方、低所得者向け支援などが拡大すれば財政支出がさらに増える可能性もあります。
反対に、戦争などに関係する一部の予算が抑制されれば、金利低下要因になる可能性もあります。
政治情勢によって支出内容は変わりますが、大きな流れとして米国の財政赤字を急速に減らすのは容易ではないとされています。
減税政策などが実施されれば、歳入が減少し、逆に赤字が拡大する可能性もあります。
そのため米国についても、財政赤字の拡大を背景とした長期金利上昇リスクには引き続き注意する必要があります。
フランスの長期金利上昇にも注意が必要
動画の後半では、フランスの国債利回りについても触れられています。
金融市場ではアメリカや日本の金利に注目が集まりやすいですが、欧州の金利上昇も世界市場に影響を及ぼします。
フランスでは財政状況をめぐる警戒感から長期国債利回りが歴史的に高い水準へ上昇する局面が見られています。
フランスはユーロ圏の主要国であるため、フランス国債が大きく売られれば欧州全体の債券市場にも影響します。
さらに世界の金融市場は相互に結び付いているため、欧州での金利上昇がアメリカや日本の国債市場に波及する可能性もあります。
「米国金利だけを見ていればよい」というわけではなく、今後は欧州の財政問題にも注意が必要でしょう。
日本の長期金利も世界的な金利上昇と無関係ではない
日本でも国債利回りの上昇は重要なテーマになっています。
日本銀行の金融政策が正常化に向かえば、政策金利だけでなく長期国債利回りにも上昇圧力がかかります。
そこへ海外の長期金利上昇が重なると、日本の国債市場にも影響が波及する可能性があります。
日本の長期金利が上昇すれば、住宅ローン金利や企業の借入金利などにも徐々に影響が広がります。
その意味では、「秋に海外の金利が上がっている」というニュースは、債券投資家だけの問題ではありません。
株式、為替、不動産、住宅ローンなど幅広い分野に関係するテーマなのです。
なぜ秋に金利が上がりやすいのかを整理
今回の動画で最も重要なのは、「秋だから金利が上がる」という単純な季節性ではないという点です。
夏から秋にかけて、金利上昇につながりやすいイベントが重なりやすいのです。
各国では来年度予算の議論が本格化し、財政赤字がどこまで増えるのかが注目されます。
そこへ格付け会社による信用力の評価や格下げ懸念が加わります。
さらに夏休み明けには企業などによる債券発行も増え、債券市場の供給が増加します。
つまり、
「財政政策への不透明感」
「格付けへの警戒」
「債券供給の増加」
といった複数の要因が重なることで、秋は国債が売られ、長期金利が上昇しやすい環境になるということです。
まとめ
秋に金利上昇が話題になりやすい背景には、各国政府の予算編成と財政赤字の問題があります。
現在の世界では、新型コロナ後の経済対策だけでなく、防衛費、社会保障費、物価高対策、住宅政策、AIや半導体などへの成長投資といった巨額の支出が必要になっています。
その一方で、歳出削減や増税は政治的に難しく、財政赤字を減らすことは容易ではありません。
特に秋は翌年度予算の議論が本格化するため、「財政赤字がさらに増えるのではないか」という不安が強まりやすくなります。
さらに格付け会社による評価や格下げ懸念、9月頃に増えやすい債券発行などが重なることで、長期金利には上昇圧力がかかりやすくなります。
重要なのは、これが単なる「秋の季節性」ではないということです。
背景には世界的な財政構造の変化があります。
防衛費や社会保障費を簡単に削れない状況が続くのであれば、財政赤字の高止まりと長期金利上昇のリスクも中長期的に残る可能性があります。
今後の金融市場を見る際には、中央銀行の政策金利だけを見るのではなく、各国政府がどれだけ国債を発行するのか、財政赤字がどこまで拡大するのか、格付け会社がその状況をどのように評価するのかにも注目することが重要でしょう。


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