本記事は、YouTube動画『キオクシアはストップ高なのになぜ夜間取引で急落したのか?歴史的決算を徹底分析』の内容を基に構成しています。
2026年7月31日、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングスは、朝からストップ高買い気配となり、通常取引ではほとんど株価が動かないまま取引を終えました。
始値、高値、安値、終値はすべて4万6500円です。前日終値の3万9500円から7000円上昇し、値幅制限の上限に張り付いた状態でした。
ところが、午後3時30分に発表された決算を受け、夜間の時間外取引では一時4万2810円まで下落しました。終値と比べると3690円安く、下落率は7.94%です。
その後は4万4740円まで買い戻される場面もありましたが、昼間の強気一辺倒の相場とは対照的に、夜間市場では評価が大きく揺れました。
今回の決算は、売上収益が前年同期の5.16倍、1株当たり利益が45.4倍という歴史的な内容でした。それにもかかわらず、なぜ株価は素直に上昇しなかったのでしょうか。
その理由を理解するには、単純な前年比較だけでなく、会社予想、市場予想、販売数量、製品価格、設備投資、財務戦略まで丁寧に確認する必要があります。
キオクシア株が終日ストップ高になった理由
7月31日のキオクシア株は、朝の寄り付き前から大量の買い注文が集まりました。ストップ高となる4万6500円で買い気配となり、通常の取引時間中は1度も値段が動かないまま大引けを迎えています。
このように、買い注文が売り注文を大幅に上回り、ストップ高のまま売買が成立しにくい状態を「寄らずのストップ高」と呼びます。
当日の売買高は117万9600株でした。前日の7月30日は9153万9100株だったため、当日の出来高は前日のわずか1.29%にとどまります。
売りたい投資家が極端に少なく、買いたい投資家だけが並んでいたことが分かります。
背景には、前日の米国半導体市場の急上昇がありました。フィラデルフィア半導体株指数は7月30日に8%台上昇し、サンディスクやマイクロン・テクノロジーなどのメモリー関連株も大幅高となりました。
米国市場で半導体株が一斉に買い戻された流れを受け、日本市場でもキオクシアに買い注文が集中したのです。
決算発表が取引終了と同じ午後3時30分だった
もう1つ重要だったのが、決算の発表時刻です。
キオクシアの決算発表は午後3時30分でした。これは東京証券取引所の現物株取引が終了する時刻と重なります。
そのため、投資家は決算内容を確認してから通常市場で売買することができませんでした。
ストップ高の買い気配に並んだ投資家は、事実上、決算発表をまたぐ形になりました。昼間の株価は、決算の中身を評価した結果というよりも、米国半導体株の上昇や好決算への期待を先回りして織り込んだものだったと考えられます。
夜間取引では一時7.94%下落
決算発表後、夜間の時間外取引では株価が大きく揺れました。
一時は4万2810円まで下落し、通常取引の終値4万6500円に対して7.94%安となりました。その後、4万4740円まで買い戻される場面もあり、この水準では終値比3.78%安です。
ただし、どちらの水準も前日終値の3万9500円は上回っています。
4万2810円なら前日比3310円高、4万4740円なら5240円高です。上昇率にすると、およそ8.38%から13.27%の範囲となります。
つまり、昼間に上昇した7000円のうち、夜間市場では4分の1から半分程度を吐き出した形です。上昇分をすべて失ったわけではありませんが、決算を受けてさらに買い進まれたわけでもありません。
この迷いのある値動きは、決算内容が単純に良い、悪いだけでは評価できなかったことを示しています。
売上収益は前年同期の5.16倍
キオクシアが発表したのは、2027年3月期第1四半期、つまり2026年4月から6月までの3か月間の決算です。
売上収益は1兆7671億円でした。前年同期は3428億円だったため、増加額は1兆4243億円、倍率にすると5.16倍です。
わずか3か月で、前年同期の5倍を超える売上を計上しました。
利益の伸びは、さらに大きなものとなっています。
営業利益は1兆2700億円でした。前年同期は449億円だったため、1兆2251億円増えています。
税引前利益は1兆2347億円、親会社の所有者に帰属する四半期利益は8422億円となりました。
1株当たり利益は1539.91円です。前年同期は33.90円だったため、およそ45.4倍に拡大しました。
3か月で前年度1年分を超える営業利益
営業利益1兆2700億円を、より身近な数字に置き換えると、その大きさが分かります。
4月から6月までの期間は91日間です。1兆2700億円を91日で割ると、1日当たりの営業利益は約139.6億円となります。
さらに24時間で割ると、1時間当たり約5.8億円です。昼夜を問わず、それだけの速さで利益が積み上がっていた計算になります。
キオクシアの前期、2026年3月期通期の営業利益は8704億円でした。今回の第1四半期の営業利益1兆2700億円は、その1.46倍です。
前年度に1年間かけて稼いだ営業利益を、今期はわずか3か月で上回ったことになります。
営業利益率75%という異例の収益性
会社が本業の収益力を示す指標として開示しているNon-GAAP営業利益は、1兆3262億円でした。
売上収益1兆7671億円に対するNon-GAAP営業利益率は75.0%です。
会計基準に基づく営業利益1兆2700億円で計算しても、営業利益率は約71.9%となります。
メモリー業界では、好況期であっても営業利益率50%前後が高収益の目安とされてきました。そのため、75%という数字は従来の常識を大きく上回る水準です。
売上の増加だけでなく、利益率も急上昇したことが、今回の決算の大きな特徴です。
データセンターとスマートデバイス向けが成長
キオクシアは売上を用途別に複数の分野に分けて開示しています。
最も大きかったのは、SSD・ストレージ向けです。売上高は1兆747億円で、全体の66.5%を占めました。
パソコンやデータセンター、企業向けSSDなどが含まれる分野です。前四半期と比べて95.7%増え、ほぼ2倍となりました。
2つ目はスマートデバイス向けで、売上高は5257億円です。
スマートフォン、テレビ、自動車、産業機器などに組み込まれるメモリーが含まれます。前四半期の3373億円から55.8%増加しました。
一方、その他の分野は大きく変化していません。
今回の急成長を支えたのは、データセンター向けと各種機器への組み込み向けです。生成AI関連の設備投資やデータ需要の増加が、実際の売上として表れたと考えられます。
好決算でも売られた理由は市場予想との差
ここまでの数字だけを見ると、文句のつけようがないほど強い決算に見えます。
それでも夜間取引で株価が下落した最大の理由は、会社予想は上回った一方で、市場のアナリスト予想には届かなかったことです。
決算を評価する際には、主に次の2つの比較対象があります。
1つは、会社自身が事前に公表していた業績予想です。
もう1つは、証券会社や調査機関のアナリスト予想を集計した「市場コンセンサス」です。
会社予想はすべて上回った
キオクシアは5月15日時点で、第1四半期について次の見通しを示していました。
売上収益は1兆7500億円、Non-GAAP営業利益は1兆3000億円、Non-GAAP利益は8700億円です。
実績の売上収益は1兆7671億円だったため、会社予想を171億円、率にして約1.0%上回りました。
Non-GAAP営業利益は1兆3262億円で、会社予想を262億円、約2.0%上回っています。
Non-GAAP利益も8870億円となり、会社予想を170億円、約2.0%上回りました。
会社側は、決算説明資料の中で、すべての項目がガイダンスを上回ったと説明しています。
会社予想との比較だけで判断すれば、確かに良好な決算です。
市場コンセンサスには届かなかった
ところが、市場のアナリストは、会社予想よりもさらに高い数字を想定していました。
売上収益の市場コンセンサスは1兆8356億円程度でした。実績の1兆7671億円は、コンセンサスを685億円、率にして約3.7%下回りました。
営業利益の市場予想は1兆3701億円程度で、実績のNon-GAAP営業利益は約3.2%下回っています。
利益の市場予想は9490億円程度で、実績は約6.5%下回りました。
つまり、今回の決算は「会社予想を上回ったが、市場予想には届かなかった」という内容です。
昼間にストップ高で買い注文を出した投資家は、前年同期比5.16倍や1株当たり利益45.4倍といった成長率を重視しました。
一方、夜間市場で売った投資家は、市場コンセンサスに対する未達を重視しました。
同じ決算でも、どの数字を基準にするかによって評価が正反対になったのです。
次の四半期も業績拡大を見込む
キオクシアは、2026年7月から9月までの第2四半期についても強い見通しを示しました。
売上収益は2兆3900億円を見込んでいます。第1四半期の1兆7671億円から、さらに35.2%増える計算です。
Non-GAAP営業利益は1兆9000億円で、43.3%増を見込んでいます。
会計基準に基づく営業利益は1兆8900億円で、48.8%増の見通しです。
親会社の所有者に帰属する利益は1兆2700億円で、50.8%増える予想となっています。
1株当たり利益は、第1四半期の1539.91円から、第2四半期には2317.46円へ増える計算です。
業績が減速するのではなく、さらに加速する見通しであることが分かります。
第2四半期の売上予想も市場期待をわずかに下回る
ただし、第2四半期の会社予想についても、市場予想との比較では微妙な差がありました。
市場が想定していた売上収益は2兆4564億円程度です。会社予想の2兆3900億円は、これを約2.7%下回ります。
一方、営業利益の市場予想は1兆9079億円程度で、会社予想の1兆9000億円との差は約0.4%です。
利益面では、ほぼ市場予想と一致しています。
数字自体は歴史的な高さですが、市場参加者にとっては完全なサプライズではありませんでした。すでに株価や市場予想の中に、非常に高い成長期待が織り込まれていたためです。
市場予想が会社予想より高くなった背景
市場の期待が過度に高くなっていた背景には、キオクシアが以前の業績予想を大きく上回って着地させた経験があります。
2026年3月期の第3四半期決算時点で、会社は通期予想を1つの数字ではなく、一定の幅を持つレンジ形式で示していました。
売上収益は2兆1798億円から2兆2698億円、営業利益は7096億円から7996億円、親会社の所有者に帰属する利益は4538億円から5138億円という予想でした。
しかし、実際の通期売上収益は2兆3376億円となり、予想レンジの上限を678億円上回りました。
営業利益は8704億円で、上限を708億円上回っています。
親会社の所有者に帰属する利益も5545億円となり、上限を407億円上回りました。
すべての主要項目で、会社予想の上限を突破したのです。
この実績から、市場には「キオクシアは会社予想の上限さえ超えてくる」という認識が生まれました。
予想の出し方をレンジから単一数字へ変更
今回、会社は業績予想の示し方を変更しました。
第2四半期の見通しは幅を持たせず、売上収益2兆3900億円、営業利益1兆8900億円、親会社の所有者に帰属する利益1兆2700億円と、単一の数字で示しています。
会社としては、従来より明確な予想を出したとも考えられます。
しかし、市場側は「会社予想を上回るはずだ」という従来の前提を維持したまま、会社の数字に上乗せして予想を作りました。
その結果、実際の決算や会社見通しが悪かったわけではないにもかかわらず、市場期待に届かなかったように見えた可能性があります。
今回の夜間下落は、業績の悪化というより、会社の予想方法の変化と市場期待のずれによって生じた面があると考えられます。
売上増加の主役は数量ではなく販売価格
今回の決算を理解するうえで、特に重要なのが売上増加の内訳です。
売上が増える理由は、大きく分けて2つあります。
1つは、製品の販売数量が増えることです。
もう1つは、製品の販売価格が上昇することです。
販売数量の増加による成長は、生産能力や市場シェアの拡大につながります。一方、価格上昇による成長は、需給が緩んで価格が下落すれば、利益が急速に縮小する可能性があります。
キオクシアの決算説明資料によると、前四半期と比べた出荷量の増加率は、記憶容量ベースで1桁前半%でした。
これに対して、販売単価は約70%上昇しました。
売上収益は前四半期比76.2%増です。出荷量が数%、販売価格が約70%上がった結果として、売上が約76%増加したことになります。
つまり、今回の増収の大部分は販売数量ではなく、価格上昇によって生み出されました。
製品構成ではなく同じ製品の価格が上昇
平均販売価格が上昇する場合、高価格帯の製品構成が増えたことで、見かけ上の単価が高くなるケースもあります。
しかし、会社の説明では、NAND型フラッシュメモリー全体でも、製品構成をならしたベースでも同程度の価格上昇が確認されています。
高性能製品の比率が増えただけではなく、同じ種類の製品そのものの価格が大幅に上昇したと考えられます。
円安の効果は売上増加の1割弱
為替も業績を押し上げました。
ドル円の平均レートは前四半期の1ドル155円から、今回は160円となりました。前年同期は145円だったため、前年同期比では15円の円安です。
会社の説明では、為替が1円動くと、四半期の売上収益が約140億円、営業利益が約130億円動くとされています。
前四半期から5円円安になった効果を単純計算すると、売上収益を約700億円押し上げたことになります。
前四半期からの売上増加額全体に占める割合は1割弱です。
円安も追い風となりましたが、今回の増収と増益の中心は、あくまでNAND型フラッシュメモリーの販売価格上昇でした。
利益率80%が示す価格上昇の威力
Non-GAAPベースの売上総利益率は80%となりました。
合弁会社に関係する売上を除いて計算すると、売上総利益率は82%です。
Non-GAAP営業利益率は75.0%となり、第2四半期の見通しでは79.5%まで上昇する予想です。
販売数量が大きく増えなくても、同じ製品の価格だけが上がれば、追加の売上の多くがそのまま利益になります。
価格上昇が続くほど利益率も上昇するため、今回の高い利益率は、価格が業績拡大の主役だったことを裏付けています。
在庫が増えていないことは需要の強さを示す
棚卸資産の保有日数は102日でした。前四半期は103日だったため、ほぼ変わっていません。
製品価格が大幅に上昇しているにもかかわらず、在庫が積み上がっていないことは、実際の需要が強いことを示しています。
価格主導の増収だからといって、必ずしも悪いわけではありません。
需要に対して供給が不足しているからこそ価格が上昇しているためです。価格の上昇は、AIやデータセンター向け需要の強さを表しているとも言えます。
問題は、この価格上昇がいつまで続くかです。
NAND価格の上昇は続くが伸び率は鈍化へ
調査会社TrendForceは、2026年7月から9月までのNAND型フラッシュメモリーの契約価格について、10%から15%の上昇を予想しています。
価格上昇そのものは続く見通しです。
ただし、4月から6月の約70%という急激な上昇と比べると、上昇率は明確に鈍化します。
さらに2027年以降の需給については、見方が分かれています。
TrendForceは、2027年には供給の伸びが需要を上回り、2027年後半には供給不足が和らぐ可能性があると見ています。
一方、サムスン電子は7月30日の決算発表で、2027年には需要と供給の差がさらに拡大するとの見方を示しました。
キオクシア自身は、2027年も需要が供給を上回ると予想しています。立場としては、サムスン電子に近い強気の見通しです。
AI需要はまだ立ち上がり段階
キオクシアは、2026年のNAND型フラッシュメモリー市場について、ビット需要が10%台後半で成長すると見込んでいます。
自社のビット出荷量も、市場全体の成長に沿って伸ばす方針です。
需要をけん引するのは、エージェンティックAIをはじめとするAI向けアプリケーションです。
会社は、こうした需要はまだ立ち上がり段階にあると認識しています。
AIが文章や画像を生成するだけでなく、自律的に複数の作業を実行するようになれば、保存・読み出しが必要なデータ量はさらに増加します。
そのため、NAND型フラッシュメモリーやSSDに対する需要が中長期的に拡大する可能性があります。
2028年出荷量の50%を長期契約で確保へ
会社は主要顧客との長期契約についても説明しています。
2028年の出荷量のうち、50%を長期契約でカバーすることを目指しており、契約獲得は着実に進んでいるとしています。
2年先の出荷量の半分をあらかじめ契約で確保できれば、将来の販売数量を予測しやすくなります。
現在の業績は販売価格の上昇に大きく依存していますが、長期契約が増えれば、価格変動に左右されやすい事業から、数量を安定して見通せる事業へ近づきます。
2027年から2028年にかけての需給見通しと長期契約の進捗は、今後の株価を左右する重要な材料となります。
売上と利益が急増しても設備投資は増えていない
今回の決算には、売上や利益が急増する中で、ほとんど増えていない項目がありました。
それが設備投資です。
営業活動によるキャッシュフローは8663億円でした。前年同期は61億円、前四半期は2944億円だったため、過去最高の水準です。
一方、第1四半期の設備投資額は524億円でした。
政府補助金120億円などを差し引いたネット設備投資額は391億円です。
四半期ごとの設備投資額を見ると、前年同期は536億円、その後は915億円、709億円、677億円と推移し、今回が524億円でした。
前四半期から153億円減少し、前年同期と比べてもわずかに少ない水準です。
売上収益が前四半期の1.76倍、営業利益が約2.1倍に増えたにもかかわらず、設備投資は減っています。
売上高に対する設備投資比率は3%
前年同期は、売上高の約16%を設備投資に使っていました。
今回は売上高に対する設備投資の割合が約3%に低下しています。
会社は2026年度から2028年度までの3年間で、約1.4兆円の設備投資を計画しています。
単純平均では年間約4700億円です。
それに対して、計画初年度の第1四半期は524億円にとどまりました。年間計画から考えると、慎重なスタートです。
稼いだ現金は工場より借金返済へ
営業キャッシュフローで得た資金の一部は、台湾のNanya Technologyなどへの出資にも使われました。
しかし、より大きな資金の使い道は借入金の返済です。
財務活動によるキャッシュフローでは多額の資金を支出し、その中心は約4075億円のシニアローンの全額返済でした。
この結果、社債と借入金は1兆476億円から6346億円へ減少しました。
一方、現金および現金同等物は4707億円から7910億円へ増加しています。
借金から現金を差し引いたネット有利子負債は、前期末の5521億円からマイナス1867億円に変化しました。
現金が借金を上回る「ネットキャッシュ」の状態になったということです。
ネット有利子負債を自己資本で割ったネットD/Eレシオは、前期末の39%からマイナス8%へ改善しました。
前年同期は120%だったため、わずか1年間で借金依存の財務体質が大きく変わったことになります。
自己資本比率も38%から51%へ上昇しました。
営業キャッシュフローからネット設備投資を差し引いたコア・フリーキャッシュフローは8272億円となり、過去最高を記録しています。
設備投資を抑えた判断は強気にも慎重にも読める
稼いだ資金を新工場の建設ではなく、借金返済と現金の積み上げに回した判断は、2通りに解釈できます。
強気に見るなら、財務基盤を強化したうえで、今後の大規模投資に備えていると考えられます。
会社自身も、強固な財務基盤を構築したと説明しています。
一方、慎重に見るなら、メモリーのスーパーサイクルを強調しながらも、会社はまだ大規模な増産に踏み切っていないとも読めます。
ただし、会社は生産基盤の拡充を継続する方針も明言しています。
北上工場では第10世代BiCS FLASHの生産が始まり、第8世代製品の生産比率も50%を超えました。
新しい工場を建設するよりも、既存ラインを新世代製品に置き換える投資に重点を移している可能性があります。
今後、設備投資額が本格的に増えるかどうかは、会社が将来需要をどれほど強く見ているかを判断する材料となります。
最大8000億円の自社株買いを発表
キオクシアは決算発表と同じ7月31日、自社株買いと株式分割も発表しました。
自社株買いの上限は3000万株です。自己株式を除く発行済み株式総数の5.5%に相当します。
取得金額の上限は8000億円で、取得期間は2026年8月3日から10月30日までです。市場での買い付けを予定しています。
第1四半期に稼いだ親会社の所有者に帰属する利益は8422億円でした。
つまり、3か月間で稼いだ利益とほぼ同じ金額を、次の約3か月間で自社株買いに充てる計算です。
時価総額約25.48兆円に対しては、約3.14%に相当します。
取得期間を営業日約61日として8000億円を単純に割ると、1日当たり約131億円です。
必ず毎日同額を買うわけではありませんが、株価が下落した場面では相応の下支え要因になる可能性があります。
1株を3株にする株式分割
もう1つの発表が株式分割です。
キオクシアは1株を3株に分割します。基準日は9月30日、効力発生日は10月1日です。
株式分割によって1株当たりの価格が3分の1になるため、投資家が売買しやすくなります。
ただし、今回の3分割だけでは、東京証券取引所が望ましいとする投資単位50万円未満には届きません。
7月31日の終値4万6500円を3で割ると、分割後の理論価格は1万5500円です。
100株単位で購入する場合、必要資金は155万円となります。
会社自身も、投資単位50万円未満への移行については、引き続き検討すると説明しています。
市場の一部では10分割を期待する見方もあったため、3分割は期待より小さいと受け止められた可能性があります。
株式分割は必ずしも株価上昇につながらない
一般的には、株式分割によって最低購入金額が下がれば、個人投資家が参加しやすくなるため、株価にはプラス材料と説明されます。
しかし、株式分割だけで株価が上がり続けるとは限りません。
動画では古河電気工業の事例が紹介されています。
同社は5月12日に1株を10株に分割すると発表しました。分割の効力発生日は7月1日です。
発表直後には株価が急騰しましたが、分割調整後の株価で見ると、5月27日に6241円をつけた後、7月31日の終値は3137円まで下落しました。
高値からの下落率は49.7%です。
もちろん、AI・半導体関連株全体の下落など、株式分割以外の要因もあります。
それでも、株式分割さえ発表すれば株価が上昇するという単純なものではないことが分かります。
株価が高いことによる希少性が薄れたり、売買単位が小さくなることで値動きが軽くなったりする可能性があります。
買いやすくなることは、同時に売りやすくなることでもあります。
キオクシアの場合、8000億円の自社株買いは需給面で明確な買い材料です。
一方、10月1日の株式分割は、株式の需給構造や投資家層を変える可能性があります。
8月から10月にかけては、自社株買いと株式分割という2つの材料が同時に株価へ影響することになります。
今後確認すべき3つのポイント
今回の決算を今後の投資判断につなげるうえでは、特に3つの項目が重要になります。
設備投資額が増えるか
第1四半期の設備投資額は524億円にとどまりました。
今後、設備投資が増加すれば、会社がAIやデータセンター向け需要の継続に自信を持っている可能性があります。
反対に、価格が高騰しているにもかかわらず設備投資が増えない状態が続けば、将来の需給に慎重な姿勢を取っているとも考えられます。
販売数量が伸び始めるか
今回の増収は、販売数量ではなく、約70%の販売価格上昇が主因でした。
今後、価格だけでなく出荷量も本格的に増え始めれば、業績成長の性質が変わります。
価格上昇に依存した利益から、数量拡大を伴う持続的な成長へ移行できるかが焦点です。
長期契約がどこまで進むか
キオクシアは、2028年の出荷量の50%を長期契約でカバーする目標を掲げています。
この目標に近づけば、将来の販売数量や収益を予測しやすくなります。
メモリー価格の市況変動に左右されやすい事業構造を、どこまで安定させられるかを判断する重要な指標です。
まとめ
キオクシアの2027年3月期第1四半期決算は、売上収益が前年同期の5.16倍、1株当たり利益が45.4倍、営業利益率が70%を超えるという歴史的な内容でした。
第1四半期だけで前年度通期の営業利益を上回り、第2四半期にはさらに増収増益を見込んでいます。
会社予想もすべて上回っており、企業業績そのものは非常に強い状態です。
それでも夜間取引で株価が下落したのは、市場コンセンサスが会社予想よりもさらに高い水準に設定されていたためです。
過去に会社が業績予想の上限を大きく上回った経験から、市場は今回も予想以上の数字を期待していました。
また、今回の業績拡大は販売数量よりも、約70%の販売価格上昇に支えられています。
需要が強く、在庫も増えていないことは好材料ですが、価格上昇が鈍化した場合、現在の非常に高い利益率が維持できるかは不透明です。
一方で、会社は借入金を大幅に返済し、ネットキャッシュへ転換しました。さらに最大8000億円の自社株買いと1株を3株にする株式分割を発表しています。
今後は、設備投資額、出荷量の伸び、2028年に向けた長期契約の進捗が重要になります。
今回の決算は、業績が良いだけでは株価が上がるとは限らないことを示しました。
株価は過去の業績ではなく、市場がどこまでの成長を事前に期待していたかによって動きます。前年比、会社予想、市場コンセンサスの3つを分けて確認することが、決算を正しく読むうえで重要です。


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