本記事は、YouTube動画『銀行がお金を生む仕組み「信用創造」とは?教科書と現実の違いを解説』の内容を基に構成しています。
私たちが日常的に使っているお金は、いったいどこから生まれているのでしょうか。
多くの人は、日本銀行がお札を発行し、そのお金が銀行を通じて世の中に流れていると考えているかもしれません。しかし、現代社会で使われているお金の大部分は紙幣や硬貨ではなく、銀行口座に記録された数字です。
そして、この預金という形のお金を生み出している中心的な存在が、民間銀行です。
銀行は、誰かから預かった現金を別の人に貸しているだけではありません。住宅ローンや企業融資を実行する際、借り手の口座に新しい預金を作り出しています。この仕組みは「信用創造」と呼ばれています。
信用創造は、経済を成長させる重要な仕組みである一方、過剰な融資によるバブルや、返済が集中することで起こる信用収縮の原因にもなります。
この記事では、学校の教科書で説明される信用創造と、現代の銀行実務に近い説明の違いを整理しながら、銀行がお金を生み出す仕組み、その限界、経済や資産価格に与える影響まで詳しく解説します。
現代社会のお金の大部分は現金ではない
お金と聞くと、多くの人は紙幣や硬貨を思い浮かべます。しかし、現代社会で流通しているお金の大部分は、実際には銀行口座に記録された預金です。
動画では、日本国内に存在するお金を広く捉えると、その規模は約1300兆円に達する一方、紙幣や硬貨といった現金は約120兆円にすぎないと説明されています。
つまり、お金全体のうち現金が占める割合はおよそ1割であり、残りの大部分は銀行預金ということになります。
私たちの日常生活を振り返ってみても、現金を直接やり取りする場面は以前より減っています。
会社から受け取る給料は銀行口座に振り込まれ、家賃や公共料金は口座から引き落とされます。クレジットカードやスマートフォン決済を利用すれば、買い物をしても現金を手渡すことはありません。
このとき動いているのは、紙幣そのものではなく、銀行口座に記録された数字です。
現代のお金の中心は、紙幣ではなく預金だと考える必要があります。
銀行口座の数字は誰が作っているのか
紙幣を発行しているのは日本銀行です。しかし、世の中のお金の大部分を占める銀行預金を作っているのは、日本銀行だけではありません。
実際には、私たちが日常的に利用している民間銀行が、融資を行う過程で新しい預金を生み出しています。
ここで重要になるのが、信用創造という仕組みです。
信用創造:銀行が貸し出しを行うことで、新しい銀行預金が生まれ、世の中のお金が増える仕組みです。
銀行は単に、ある人から預かったお金を別の人へ移しているだけではありません。融資を実行する際、借り手の口座に新たな預金残高を記録します。
この記録によって、それまで存在しなかった新しい預金が生まれます。
教科書で説明される信用創造の仕組み
学校の政治経済などで扱われる信用創造は、一般的に次のような流れで説明されます。
最初に、ある人が銀行へ100万円を預けます。銀行は、そのうち一定割合を手元に残し、残ったお金を別の人へ貸し出します。
仮に銀行が100万円のうち10万円を残し、90万円を貸し出したとします。
90万円を借りた人が商品やサービスの購入に使うと、そのお金は代金を受け取った人の銀行口座へ預けられます。その銀行は、預けられた90万円の一部を残し、再び別の人へ貸し出します。
この流れが繰り返されることで、最初は100万円だった預金が、銀行システム全体では何倍もの預金へ膨らんでいくという説明です。
この考え方は「預金が先、貸し出しが後」という順番になっています。
銀行は、あらかじめ集めた預金を元手にして融資を行い、貸し出されたお金が再び預金されることで、全体として預金が増えていくというモデルです。
この説明は、信用創造の基本的な考え方を学ぶうえでは分かりやすいものです。しかし、現代の銀行が実際に融資を行う流れを説明するには、必ずしも十分ではありません。
現代の銀行融資では貸し出しと同時に預金が生まれる
現代の銀行実務に近い考え方では、融資を行う前に同額の預金を集める必要があるとは限りません。
たとえば、住宅を購入するために銀行から3000万円の住宅ローンを借りるとします。
融資が実行されると、借り手の銀行口座には3000万円が入金されます。では、その3000万円はどこから来たのでしょうか。
誰か別の預金者の口座から、3000万円が差し引かれたわけではありません。銀行の金庫から紙幣を運び出して、借り手の口座へ入れたわけでもありません。
銀行は融資を実行する際、借り手の口座に3000万円の預金を記録します。
この瞬間、銀行の帳簿上では2つの項目が同時に増えます。
銀行にとって、借り手へ貸した3000万円は、将来返済を受けられる権利であるため資産になります。一方、借り手の口座に記録された3000万円の預金は、銀行が預金者へ支払う義務であるため負債になります。
銀行の帳簿では、次のような関係が生まれます。
- 銀行の資産:住宅ローン債権3000万円
- 銀行の負債:借り手の預金3000万円
このように、銀行は融資と同時に預金を作り出します。
誰かの預金をそのまま借り手に移すのではなく、新たな貸出債権と預金を同時に作るのが、現代的な信用創造の説明です。
「預金が先」ではなく「貸し出しが先」
教科書型の説明と現代的な説明では、どちらも融資によって銀行預金が増えるという結論は共通しています。
大きく異なるのは、預金と貸し出しの順番です。
教科書でよく使われる説明では、預金が先に存在し、銀行がその一部を貸し出します。
一方、現代の銀行実務に近い説明では、銀行が融資を実行した時点で新しい預金が生まれます。つまり、貸し出しが先で、預金が同時に作られるという考え方です。
銀行は、預金者から集めたお金を右から左へ流すだけの仲介業者ではありません。
融資を通じて、決済に使える銀行預金を発行する役割を担っています。
ただし、銀行は融資後の決済に対応する必要があります。
たとえば、住宅ローンを借りた人が住宅代金を支払い、売り手が別の銀行に口座を持っている場合、融資した銀行は銀行間決済に必要な資金を用意しなければなりません。
したがって、銀行は預金や中央銀行当座預金をまったく必要としないわけではありません。重要なのは、「融資前に同額の預金を集めなければ貸せない」という単純な仕組みではないという点です。
銀行融資で生まれたお金は返済すると消える
信用創造を理解するうえで重要なのは、お金が生まれる場面だけではありません。
銀行から借りた元本を返済すると、その分の銀行預金は消滅します。
住宅ローンとして3000万円が作られた場合、借り手が元本を返していくたびに、銀行の貸出債権と預金が減少します。
融資によって生まれた預金は、元本返済によって消えていくのです。
ただし、元本と利息は区別する必要があります。
元本の返済は、融資によって生まれた預金を消滅させます。一方、銀行に支払われた利息は銀行の収益となり、人件費や経費、配当などとして再び経済へ支出される可能性があります。
信用創造の基本的な流れを簡単に表すと、次のようになります。
銀行が融資する
↓
借り手の口座に新しい預金が生まれる
↓
借り手が返済する
↓
元本に相当する預金が消える
世の中のお金の量は、銀行が新たに貸し出す金額と、既存の借金が返済される金額のバランスによって増減します。
なぜ銀行だけが信用創造できるのか
お金を貸す行為そのものは、銀行以外でも行えます。
消費者金融や事業会社、家族や友人同士でもお金を貸すことは可能です。しかし、通常の貸し借りでは、すでに存在するお金が貸し手から借り手へ移動するだけです。
たとえば、友人に10万円を貸した場合、貸した人の現金や預金は10万円減り、借りた人の現金や預金が10万円増えます。
社会全体のお金の量は変わりません。
これに対し、銀行が融資を実行すると、借り手の口座に新しい預金が記録されます。その預金は買い物や送金に使うことができ、一般的にお金として受け入れられます。
銀行が信用創造できるのは、銀行預金そのものが社会で広く決済手段として認められているからです。
銀行には決済システムへの参加が認められ、預金保険制度や中央銀行の仕組みも用意されています。その代わり、銀行業は免許制となっており、厳しい規制や監督を受けています。
銀行は無限にお金を作れるわけではない
銀行が融資と同時に預金を生み出せると聞くと、無限にお金を作れるようにも思えます。
しかし、現実には複数の制約があります。
銀行は、キーボードで数字を入力すれば好きなだけ融資できるわけではありません。
借りたい人や企業が必要になる
信用創造は、必ず借金とセットで行われます。
銀行が新しい預金を作るためには、住宅ローンや事業資金などを借りたい人や企業が必要です。
景気が悪化し、将来への不安が強くなると、企業は設備投資を控え、家庭も住宅や自動車の購入を先送りする傾向があります。
銀行に融資する余力があったとしても、借り手がいなければ新しいお金は作られません。
返済能力のある借り手でなければならない
銀行は、返済が見込めない相手へ無制限に融資できません。
融資先が返済できなくなれば、銀行は貸したお金を回収できず、貸倒損失を計上します。損失が大きくなれば、銀行自身の経営が危険になります。
そのため、住宅ローンでは年収、勤務先、勤続年数、既存の借り入れ、担保となる住宅の価値などが審査されます。
企業融資でも、売上高、利益、資金繰り、事業計画、担保、経営者の信用力などが確認されます。
信用創造の「信用」とは、借り手が将来きちんと返済できるという信用を意味します。
銀行自身の収益性も問われる
銀行は営利企業であるため、融資によって一定の利益を得る必要があります。
貸出金利が低すぎたり、融資先の倒産リスクが高すぎたりすれば、融資を増やしても十分な利益を得られません。
銀行は、調達コストや事務コスト、貸倒リスクなどを考慮しながら融資を判断します。
銀行にとって採算が合わなければ、借りたい人がいたとしても融資が実行されないことがあります。
準備預金制度は信用創造の主な制約なのか
教科書型の信用創造では、銀行が預金の一部を準備として残し、それ以外を貸し出すという説明が中心になります。
このとき登場するのが準備預金制度です。
準備預金制度:金融機関が受け入れた預金などの一定割合を、日本銀行への預け金として保有する制度です。
従来の説明では、準備率が10%なら銀行は預金の90%まで貸し出せるため、準備率によって信用創造の上限が決まるとされてきました。
しかし、現在の日本では、準備率だけを見て銀行の貸し出し能力を説明するのは難しくなっています。
動画では、日本の準備率は高い区分でも1%程度であり、1991年以降、長期間変更されていないと説明されています。
現在の金融政策では、準備率を頻繁に変更して銀行貸し出しを調整する方法より、政策金利や資金供給などを通じた金融調節が中心です。
そのため、準備預金制度は今も存在するものの、教科書で描かれるような信用創造の主役とは言いにくくなっています。
現代の銀行を制約する自己資本規制
現在、銀行の融資を制約する重要なルールの1つが、自己資本比率規制です。
国際的な銀行規制の枠組みは、一般にバーゼル規制と呼ばれます。
バーゼル規制:銀行が過度なリスクを取って破綻するのを防ぐため、一定水準の自己資本や流動性を確保するよう求める国際的な規制です。
銀行が保有する資産には、それぞれリスクがあります。
国債、住宅ローン、企業融資では、貸し倒れの可能性が異なります。そのため、自己資本比率を計算するときは、すべての資産を単純に合計するのではなく、リスクの大きさを反映した「リスクアセット」を基準にします。
銀行がリスクの高い融資を増やせば、その分だけ多くの自己資本が必要になります。
銀行の自己資本は、主に株主から出資された資金や、過去の利益を積み上げた内部留保などで構成されます。
融資先が返済できずに損失が発生した場合、まず銀行自身の自己資本が損失を吸収します。
銀行が十分な自己資本を持っていなければ、貸し倒れによる損失に耐えられません。そのため、融資を増やすには、それに見合った自己資本が必要になります。
銀行は預金を作ることはできますが、自らの自己資本を自由に作り出すことはできません。
これが、信用創造に対する重要な制約となっています。
金利はお金が生まれるペースを左右する
銀行による信用創造に大きな影響を与えるのが金利です。
金利が上昇すると、住宅ローンや企業融資の返済負担が大きくなります。その結果、家庭は住宅購入を控え、企業は設備投資を減らす可能性があります。
借りる人が減れば、銀行融資を通じて新しく生まれる預金も減ります。
反対に金利が低下すれば、借入コストが下がります。
住宅や自動車を購入しやすくなり、企業も新しい工場や設備、人材、研究開発などに投資しやすくなります。融資が増えることで、新しい預金も生まれやすくなります。
この意味で、中央銀行による金融政策は、銀行がお金を作り出すペースを間接的に調整する仕組みだと考えられます。
ニュースで報じられる利上げや利下げは、単に銀行預金の利息が変わるという話ではありません。
金利を通じて、人々や企業がどれだけ借りるのか、銀行がどれだけ融資するのか、そして世の中のお金がどれくらい増減するのかに影響を与えます。
信用創造が経済成長を支える理由
信用創造には、経済活動を加速させる大きな利点があります。
仮に銀行が、すでに集めた貯金しか貸せないとすれば、社会全体で十分な貯蓄が積み上がるまで、大規模な投資を行えません。
住宅を建てるためには、購入者が代金の全額を貯める必要があります。企業が工場を建てる場合も、何年もかけて利益を蓄積しなければなりません。
これでは、新しい事業や設備投資を迅速に行うことが難しくなります。
信用創造があることで、借り手は将来の所得や利益から返済することを約束し、必要な資金を現在使うことができます。
住宅ローンを利用すれば、何十年も資金を貯めてから家を買うのではなく、先に住宅を購入して、その後の所得から少しずつ返済できます。
企業も、将来の事業収益を見込んで融資を受ければ、工場や店舗、機械、システムなどに早い段階で投資できます。
信用創造は、将来生み出される価値を現在の経済活動へつなげる仕組みといえます。
戦後日本の成長と銀行融資
動画では、戦後の日本が高度経済成長を実現できた背景にも、銀行融資があったと説明されています。
戦後の日本企業は、工場や機械、生産設備を整えるために多額の資金を必要としていました。しかし、多くの企業には十分な自己資金がありませんでした。
そこで、銀行が企業へ積極的に融資し、設備投資を支えました。
企業は借りたお金で工場を建設し、機械を導入し、従業員を雇います。生産が増えれば企業の売上や利益が増え、従業員の所得も増えます。
所得が増えれば消費が拡大し、さらに企業の業績が改善します。
銀行融資を起点として、投資、生産、雇用、所得、消費が循環することで、経済成長が加速しました。
信用創造は、経済発展に必要な資金を供給する重要な役割を果たしてきたのです。
信用創造が生み出すバブルの危険性
信用創造は経済成長を支える一方で、融資が過剰になればバブルを引き起こします。
銀行が住宅や工場などの生産的な投資だけでなく、土地や株式を買うための資金を大量に供給すると、資産市場へ多くのお金が流れ込みます。
土地を買うための融資が増えれば、土地価格が上昇します。土地価格が上がれば、担保価値も高く見えるため、銀行はさらに大きな融資を行いやすくなります。
そのお金で再び土地が買われ、さらに土地価格が上昇します。
この循環が続くと、企業の利益や家賃収入といった実際の価値から離れて、資産価格だけが急激に上昇することがあります。
動画では、1980年代後半の日本のバブル経済が例として取り上げられています。
当時は「土地の値段は下がらない」という考えが広まり、不動産向けの融資が急増しました。土地価格が上昇し続けることを前提に、企業や個人が積極的に借金をして土地や株式を購入しました。
信用創造によって生まれたお金が資産市場へ集中すると、経済の実態を超える価格上昇につながる可能性があります。
バブル崩壊後に起きる信用収縮
信用創造の本当の怖さは、融資が増える局面だけではありません。
バブルが崩壊すると、お金の流れが逆回転することがあります。
土地や株式の価格が下落すると、借金をして資産を購入した企業や個人は大きな損失を抱えます。銀行も不良債権の増加を警戒し、新しい融資に慎重になります。
企業や家庭は新たな借り入れを控え、既存の借金を返すことを優先します。
しかし、銀行への元本返済は、世の中の預金を消滅させる働きを持ちます。
新しい融資が増えない一方で、返済だけが進めば、社会全体の預金量は縮小しやすくなります。
このように、銀行融資や信用が急速に縮小する現象を「信用収縮」といいます。
信用収縮:銀行が融資を減らし、企業や家計も借り入れを控えて返済を進めることで、経済全体のお金や信用が縮小する状態です。
お金が減れば、商品やサービスが売れにくくなります。企業の売上が伸びず、賃金や雇用も悪化します。
所得が増えなければ、人々は消費や借り入れをさらに控えます。企業も投資を減らし、銀行も一段と融資に慎重になります。
この悪循環が長引くと、深刻な景気停滞につながります。
日本の「失われた30年」と信用収縮
動画では、日本の「失われた30年」の一因として、バブル崩壊後の信用収縮が挙げられています。
バブル期の日本では、土地や株式を担保とした融資が拡大しました。しかし、バブル崩壊後に資産価格が大幅に下落すると、銀行は大量の不良債権を抱えました。
銀行は新規融資を抑え、不良債権の処理や自己資本の改善を優先しました。
企業側も、売上や資産価格の下落を受け、新たな設備投資より借金返済を優先しました。
経済全体で見れば、企業が利益を得ても、それを投資や賃上げに使わず、負債の返済へ回す状態が続いたことになります。
借金返済が進む一方、新しい融資が十分に増えなければ、信用創造を通じたお金の供給は弱くなります。
その結果、需要が伸びず、物価や賃金が上がりにくい状況が長期化しました。
もちろん、日本経済の長期停滞には人口動態、産業構造、政策、企業経営など複数の要因があります。しかし、バブル崩壊後の債務返済と信用収縮が重要な要因の1つだったことは確かです。
リーマンショックでも起きた信用の逆回転
2008年の世界金融危機も、信用が拡大した後に急激な収縮が起きた例です。
米国では住宅価格の上昇を背景に、住宅ローンが大量に供給されました。返済能力が十分でない借り手にも融資が行われ、その住宅ローンをもとに複雑な金融商品が作られました。
住宅価格が上昇している間は、借り換えや住宅の売却によって問題が表面化しにくい状態でした。
しかし、住宅価格が下落し、ローンの返済が滞ると、住宅ローン関連商品を保有していた金融機関が大きな損失を抱えました。
金融機関は互いの信用力を疑い、資金の貸し借りを控えるようになりました。銀行は企業や家庭への融資にも慎重になり、経済全体で信用が急速に縮小しました。
信用創造によって拡大したお金と債務が、金融不安をきっかけに逆回転したのです。
この危機を受けて、銀行の自己資本や流動性に関する規制が強化されました。
バーゼル規制が段階的に見直されてきた背景には、金融危機の経験から、銀行の過剰なリスクテイクを抑える必要があると考えられたことがあります。
世の中のお金はすべて誰かの借金なのか
動画では、信用創造の説明を聞いた子どもが「世の中のお金は全部、誰かの借金なのか」と問いかけます。
これは信用創造の本質に迫る疑問です。
銀行預金の多くは、銀行が誰かに融資を行った結果として生まれています。その意味では、私たちが持っている預金の多くは、社会のどこかに存在する債務と対応しています。
銀行の帳簿上では、誰かの預金は銀行にとって負債です。一方、その預金を生み出した融資は銀行にとって資産です。
ただし、「世の中のお金がすべて民間の借金である」と完全に言い切ると、説明としては単純化しすぎる可能性があります。
世の中には、中央銀行が発行する紙幣や、銀行が中央銀行に保有する当座預金もあります。また、政府の支出や中央銀行の資産購入なども、お金の量に影響を与えます。
それでも、家計や企業が日常的に利用する銀行預金の大部分が、銀行融資と深く結びついていることは重要です。
私たちの預金残高は、元をたどれば、誰かが住宅を買い、企業が設備投資を行い、政府や事業者が資金を調達する過程で生まれた可能性があります。
全員が借金を返したらお金は消えるのか
動画では、家庭、企業、政府が一斉に借金を完済すれば、世の中のお金の多くが消えると説明されています。
銀行融資によって生まれた預金は、元本返済によって消えるため、民間部門が一斉に借金を減らせば、銀行預金も大幅に縮小する可能性があります。
ただし、現実にはすべての借金を同時に返すことはできません。
誰かが返済するためには、その人が預金を持っている必要があります。その預金は、ほかの誰かの支出や融資、政府支出などを通じて得られたものです。
社会全体が一斉に支出を減らし、借金返済だけを進めようとすると、所得や売上が落ち込みます。その結果、かえって返済が難しくなる場合があります。
個人にとって借金を減らすことは合理的でも、全員が同時に同じ行動をすると、経済全体では需要不足を引き起こすことがあります。
これが、個人レベルの正しい行動と、社会全体の結果が一致しない難しさです。
借金は一律に悪いものではない
一般的に、借金は悪いものだと考えられがちです。
確かに、返済能力を超えた借金や、浪費のための高金利な借り入れは、家計や企業を苦しめます。
しかし、信用創造の仕組みを理解すると、借金をすべて悪と考えるのは単純すぎることが分かります。
企業が将来の収益につながる設備投資を行うための融資や、家庭が長期間利用する住宅を購入するための住宅ローンには、現在と将来をつなぐ役割があります。
重要なのは、借金の有無だけではありません。
借りたお金がどのような目的に使われ、将来どのように返済されるのかを見る必要があります。
将来の所得や生産力を高めるために使われる借金と、返済の見込みがないまま資産価格の上昇だけを期待して増える借金では、経済への影響が大きく異なります。
信用創造は、適切に使われれば経済成長を支えますが、使い方を誤ればバブルや金融危機を引き起こします。
信用創造を知ると金利ニュースの見方が変わる
信用創造を理解すると、中央銀行の金融政策や金利に関するニュースの見方も変わります。
金利が下がると、家庭や企業はお金を借りやすくなります。銀行融資が増えれば、新しい預金が生まれやすくなり、経済全体のお金が増える方向に働きます。
増えたお金が消費や設備投資へ向かえば、企業の売上や利益が伸び、景気を押し上げます。
一方、そのお金が株式や不動産へ大量に流れ込めば、資産価格の上昇につながる可能性があります。
反対に金利が上がると、新規の借り入れは減りやすくなります。既存の変動金利ローンの負担が増えれば、家計や企業は支出を抑え、返済を優先することがあります。
新しい融資が減り、返済が増えれば、信用は縮小しやすくなります。
株式や不動産などの資産価格にとって、信用の拡大は追い風になりやすく、信用の縮小は逆風になりやすいと考えられます。
市場関係者が金利や中央銀行の発言に敏感なのは、単なる景気予測ではなく、お金が生まれる勢いそのものに影響するからです。
信用拡大局面では株式や不動産に資金が向かいやすい
銀行融資が増え、経済全体の預金が拡大する局面では、株式や不動産などの資産価格が上昇しやすくなる場合があります。
金利が低ければ、預金や債券から得られる利回りが低くなり、投資家はより高い収益を求めて株式や不動産へ資金を移します。
企業にとっても借入コストが低下するため、設備投資や自社株買い、企業買収などを行いやすくなります。
住宅ローン金利が下がれば、同じ返済額でより高額な住宅を購入できるようになるため、不動産価格を押し上げる要因になります。
ただし、信用が拡大すれば必ず資産価格が上がるわけではありません。
融資が増えても、資金が生産的な設備投資へ向かうのか、消費へ向かうのか、金融資産へ向かうのかによって結果は異なります。
信用創造と資産価格の関係を見る際には、お金の量だけでなく、そのお金がどこへ流れているかを確認することが重要です。
信用収縮局面では現金の相対的な価値が高まりやすい
信用が縮小する局面では、銀行融資が減り、企業や家庭が借金返済を優先します。
市場に出回る預金の増加が止まり、場合によっては減少するため、現金や預金の希少性が相対的に高まります。
資産価格が下落する局面では、投資家は損失を避けるために株式や不動産を売却し、現金を確保しようとします。
借金を抱えている企業や投資家も、返済資金を準備するために資産を売却します。
売却が増えると資産価格が下落し、その下落がさらなる売却を呼ぶ場合があります。
信用収縮時に「現金が王様」といわれることがあるのは、現金を持っていれば返済や生活費に対応できるだけでなく、値下がりした資産を購入する機会も得られるためです。
ただし、長期的に現金を持ち続ければ、インフレによって実質的な価値が低下する可能性があります。
信用拡大と信用収縮のどちらか一方だけを想定するのではなく、経済の状況に応じて資産配分を考えることが重要です。
信用創造を子どもに説明するならどう伝えるか
動画では、信用創造を学んでいる子どもに対し、銀行を単なる金庫ではなく、お金を発行する工場のような存在だと説明しています。
子ども向けに簡単に表現するなら、次のように説明できます。
銀行は、みんなから預かったお金だけを貸しているわけではありません。
返してくれそうな人にお金を貸すとき、その人の銀行口座に新しいお金の数字を作ります。
その人がお金を返すと、作られた数字は消えます。
ただし、銀行は誰にでも好きなだけお金を作れるわけではありません。返済できる人かどうかを調べ、銀行自身も損失に耐えられるだけの資金を持つ必要があります。
銀行は「返すという約束」をもとに、社会で使えるお金を作っていると説明すると、信用創造の本質を理解しやすくなります。
まとめ
信用創造とは、銀行が融資を行う際に、新しい銀行預金を生み出す仕組みです。
現代社会で使われているお金の大部分は紙幣や硬貨ではなく、銀行口座に記録された預金です。その預金の多くは、銀行が住宅ローンや企業融資を実行する過程で生まれています。
教科書では、預金の一部を銀行が貸し出し、そのお金が別の銀行へ預けられることで預金が何倍にも増えると説明されることがあります。
一方、現代の銀行実務に近い説明では、銀行は融資を実行すると同時に、借り手の口座へ新しい預金を作ります。
つまり、「預金が先で貸し出しが後」というよりも、「貸し出しによって預金が生まれる」と考えたほうが、実際の仕組みを理解しやすくなります。
ただし、銀行が無限にお金を作れるわけではありません。
融資を希望する借り手の存在、返済能力、銀行の収益性、自己資本規制、流動性、金融政策など、さまざまな制約があります。
信用創造は、企業の設備投資や家庭の住宅購入を可能にし、経済成長を加速させます。その一方で、融資が土地や株式へ過剰に向かえば、バブルを引き起こす危険があります。
さらに、バブル崩壊後に新しい融資が減り、借金返済が集中すると、世の中のお金が縮小する信用収縮が起こります。
信用創造は、経済のアクセルとして働く一方、過剰になれば暴走し、急速に縮小すれば深刻な景気後退を招く仕組みです。
銀行は、単に預金を保管して貸し出す金庫ではありません。
返済の約束をもとに、社会で利用できる預金通貨を生み出す存在です。
この仕組みを理解すると、日銀の利上げや利下げ、銀行融資、バブル、金融危機、株式市場、不動産価格といったニュースが、すべて「お金がどのように生まれ、どのように消えるのか」という共通の視点で見えるようになります。


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